読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
59プレゼント

千原徹也さん(アートディレクター)
「犬神家の一族」(1976年)

タイトルバック 字体の魅力

千原徹也さん(アートディレクター) 「犬神家の一族」(1976年)

 頭をかくとフケが出る。下駄(げた)を履いた飄々(ひょうひょう)としたキャラクターが魅力の名探偵金田一耕助が主人公です。時代は終戦直後。信州・犬神財閥の創始者、犬神佐兵衛の遺言と遺産をめぐり、屋敷周辺で起こる一族の殺人事件を追いかけます。

 作中では様々な殺され方が登場します。湖に浮かぶ逆さの足など普通ならばそんなことしないだろうってことが逆にエグさを軽減させるというか、ちょっと面白いというか。ミステリーって全体を通して暗い話になるのですが、市川崑監督が撮るとエンターテインメントになる。映像手法が独特で、例えば主人公が女性を助けるシーンでは急に映像が静止画になったり、死体を発見して驚くシーンではカメラのピントがずれていたり、会話中に一瞬謎の映像が挟まっていたり……。ちりばめられた違和感を映像オタクみたいに探す作業が楽しいんです。

 でもやっぱり、僕が一番衝撃を受けたのは映画のタイトルバックです。冒頭、佐兵衛の臨終シーンから画面が切り替わり、黒背景に白い文字のタイトル。そして出演者やスタッフの名前が流れるのですが、そのタイポグラフィー(活字書体のデザイン)がとても格好良いんです。当時中学生の僕は映画監督になりたかったのですが、この作品を見てデザインというのが映画を撮る上でとても重要なことなんじゃないかと思うようになりました。出会わなければ今の職業になっていなかったかもしれない。それくらい、影響を受けています。

聞き手・町田あさ美

 

  監督・共同脚本=市川崑
  原作=横溝正史
  出演=石坂浩二、高峰三枝子、三条美紀、草笛光子、あおい輝彦、地井武男ほか
ちはら・てつや 
 京都府生まれ。デザイン事務所「れもんらいふ」代表。企業広告のほか、CDジャケットやブックデザインなども手掛ける。
(2017年11月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

今、あなたにオススメ