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山口啓介さん(現代美術家)
「ブレードランナー2049」(2017年)

はみだす部分が存在意義

山口啓介さん(現代美術家)「ブレードランナー2049」(2017年)

 1982年に公開された「ブレードランナー」の30年後を描いた続編です。2049年、人造人間の「レプリカント」が人間と共存する世界で、レプリカント専門の捜査官であるブレードランナーのKが、レプリカントの秘密を握る元ブレードランナーの男を捜す物語です。人間に到達するほどの人造人間を製造するテクノロジーや、整然と広がる合成農場。一巨大企業が作り上げ管理する社会がリアルで恐ろしい。ディストピア(反理想郷)的な未来を見せられました。

 伝説的に語られる前作は、正直キッチュな「カルト映画」という印象でしたが、本作は細部まで作り込まれた画面にリアリティーがあり、かなり洗練されている。風車に戦いを挑むドン・キホーテのような滑稽さを帯びるかもしれませんが、巨額の費用で制作され「絵画化」した映画というエンターテインメントに、私たち芸術家はどう対峙(たいじ)するのか。突きつけられた気分になりました。

 個人的に映画のヘソだと感じたのは、3Dホログラムの女性ジョイと娼婦(しょうふ)マリエッティが体を重ねシンクロする場面。ジョイが初めて肉体を得てKと向き合うシーンですが、2人を完全には同期させず、動きにズレを作っている。この重ならずはみだしている部分が肝で、それぞれの存在意義を表していると思うんです。実は現在制作中のイメージに通ずる部分があって。中央の目を共有し重なる二つの顔を、今回はジョイとマリエッティで描きました。

聞き手・安達麻里子

 

  監督=ドゥニ・ビルヌーブ
  製作=米
  出演=ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、アナ・デ・アルマスほか
やまぐち・けいすけ
 1962年生まれ。「瀬戸内国際芸術祭2013」で男木島に彫刻「歩く方舟(はこぶね)」を設置。来年6~8月、広島市現代美術館で個展を予定。
(2018年3月30日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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