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日本刀【下】 土浦市立博物館

国宝含む、土屋家の刀剣

【上】国宝 短刀 銘 筑州住行弘/観応元年八月日 【下】茶石目地塗割九曜紋散(ちゃいしめじぬりわりくようもんちらし)小さ刀拵(こしらえ)
㊤国宝 短刀 銘 筑州住行弘/観応元年八月日 
㊦茶石目地塗割九曜紋散(ちゃいしめじぬりわりくようもんちらし)小さ刀拵(こしらえ)
【上】国宝 短刀 銘 筑州住行弘/観応元年八月日 【下】茶石目地塗割九曜紋散(ちゃいしめじぬりわりくようもんちらし)小さ刀拵(こしらえ) 重要文化財 短刀 銘 国光(新藤五)

 茨城県の土浦市立博物館では毎年秋、土浦藩主土屋家ゆかりの刀剣を公開しています。土屋家の歴代当主は、江戸幕府の老中や奏者番(そうしゃばん)を務めました。奏者番とは、大名が将軍家に献上する品を披露する重職。将軍からの信頼も厚かったのでしょう。

 公開作の中に、国宝の短刀があります。銘を見ると、筑州(ちくしゅう)(現・福岡)の左文字(さもんじ)派の刀工行弘(ゆきひろ)が、観応(かんのう)元(1350)年に作ったと刻まれています。行弘の銘入りはこの1点のみ。資料的価値が大変高いです。

 私が注目するのは、天下の名工・正宗(まさむね)の作風と似ている点。正宗は相州(そうしゅう)(現・神奈川)の鎌倉幕府お抱えの刀工。正宗が極めた波のような刃文「湾(のた)れ」が本作にも見られます。鍛錬により地鉄(じがね)には木の板目(いため)に似た文様が現れ、それに沿って黒く筋状に光る地景(ちけい)が出ているのも、正宗風です。

 戦では刀が傷つくので、大名たちは刀鍛冶(かじ)を伴って出陣しました。想像するに、北畠軍勢に敗れた足利尊氏が九州に下った際、正宗の弟子を連れていたのではないでしょうか。左文字派は偶然彼らの刀を見て、その作風に学んだのかもしれません。

 もう一つの短刀は重要文化財で、正宗の師・新藤五(しんとうご)国光作。青く澄んだ地鉄や直刃(すぐは)の刃文に気品があります。

 2点ともすてきな刀です。直接見たら、刀に開眼する方がいるかもしれません。

(聞き手・笹木菜々子)


 どんなコレクション?

 国宝1点、重要文化財4点、重要美術品6点を含む、土浦藩主土屋家ゆかりの刀剣85点を所蔵。土屋家は江戸時代の約200年間、11代にわたって土浦地方を治めた大名だ。これらの刀剣のうち83点は個人コレクターが収集したもので、2002年に土浦市が一括購入した(うち1点は寄贈)。一大名家の刀剣資料がこれほどまとまって現存するのは珍しい。

 今回紹介した刀身2点は、特別公開「土屋家の刀剣」(9月27日~10月22日)で展示。

《土浦市立博物館》 茨城県土浦市中央1の15の18(TEL029・824・2928)。午前9時~午後5時(入館は30分前まで)。105円、小中高生50円。(月)((祝)の場合は翌日)、(土)(日)を除く(祝)の翌日休み。

渡邉妙子さん

佐野美術館 館長 渡邉妙子

 わたなべ・たえこ 1937年生まれ。慶応義塾大学通信教育課程卒業。日本刀研究家・本間順治氏のもとで学び、現在は日本美術刀剣保存協会の評議員を務める。静岡県文化奨励賞など受賞歴も多数。著書に「日本刀は素敵」「名刀と日本人」ほか。

(2017年9月19日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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