エコール・ド・パリの画家の多くは、第1次世界大戦前後に故郷を離れ、各国から集まった異邦人でユダヤ系が中心です。戦争に翻弄(ほんろう)されながらも、自己の表現を探究しました。
ブルガリア出身のパスキン(1885~1930)もその一人。北海道立近代美術館は現在、彼の作品を223点所蔵し、同館コレクションの軸になっています。
本作は、パスキン晩年の特徴である、にじみやぼかしで不安げな少女を描いた代表作です。紫と白を基調にした淡い色調で、手に持っている花の赤色が全体のアクセントになっていると同時に、この少女の生命感を表しています。
各国を放浪しながら絵を描いたパスキンの作品は、第1次大戦後にパリで高い評価を受けました。しかし、酒や男女関係のもつれから、しだいに退廃的になり、45歳で自ら命を絶ちます。
同じ女性像でも、鮮やかな色彩が対照的なキスリング(1891~1953)の作品を見てみましょう。「オランダの娘」は、輪郭をはっきりと描いていますが、背景は青の階調で、目はどこかうつろです。社交的でパスキンとも交流があったキスリングは、ユダヤ系ポーランド人で、第2次大戦中に亡命を余儀なくされました。メランコリックな表情は、エコール・ド・パリに共通する傾向です。
(聞き手・根津香菜子)
★どんなコレクション?
美術館創立は1977年。小寺健吉ら大正から昭和初期の北海道の美術家が、同時期のフランス美術に影響を受けたことから、同館の準備室時代にパスキンの作品65点を収蔵。以後、系統的に収集している。エコール・ド・パリの作品は、キスリング7点を含む計288点。札幌市出身の片岡球子の日本画や、国内外のガラス工芸なども。「花束をもつ少女」と「オランダの娘」は、4月12日まで開催の「第Ⅲ期名品選」で展示。
《北海道立近代美術館》 札幌市中央区北1条西17(TEL011・644・6881)。午前9時半~午後5時(入館は30分前まで)。510円、高・大学生250円。(月)((祝)の場合は翌日)休み。
成城大名誉教授 千足伸行 せんぞく・のぶゆき 広島県立美術館館長。東京大・美術史学科卒業後、西ドイツ(当時)政府給費留学生としてミュンヘンに留学。帰国後、国立西洋美術館主任研究官などを歴任。専門は近代フランス絵画。著書に「西洋名画ズバリ101!」ほか。 |