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壺屋総本店@本郷

勝海舟も愛した和菓子

入倉喜克さんの頭上に見えるのが「神逸気旺」の書。神頼みにせず気力で頑張るようにとの意を込めている
入倉喜克さんの頭上に見えるのが「神逸気旺」の書。神頼みにせず気力で頑張るようにとの意を込めている
入倉喜克さんの頭上に見えるのが「神逸気旺」の書。神頼みにせず気力で頑張るようにとの意を込めている 左から壺々最中(1個110円)、壺汁粉(240円)、壺形最中(190円~)

 本郷三丁目駅から湯島天満宮へ向かう春日通り沿いに「壺屋総本店」はある。江戸時代の寛永年間(1624~44年)創業、390年を超える歴史を誇る。「江戸の町人が開いた最初の菓子店です」と18代目の入倉喜克さん(64)は語る。

 看板商品は最中(もなか)。北海道産の小豆と国産のザラメを炊き、皮に詰める。工程は全て手作りだ。口に入れると、しっかりした甘さながらくどくないあんと、もち米100%の皮がすっと溶けていく。

 「無添加、手作りだから日持ちせず、量産できない。それでも、本物を食べて欲しい」と穏やかな笑顔の中に老舗の矜持(きょうじ)を見せる。

 店内に掲げられた「神逸気旺(しんいつきおう)」の書は勝海舟の筆によるもの。「御用菓子司(ごようかしつかさ)」として徳川御三卿(ごさんきょう)の一橋家や清水家などに出入りしてきた壺屋。大政奉還を機に暖簾(のれん)を下ろしたが、「市民が壺屋の菓子を食べたいと言っているから、商いを続けるように」と、常連客だった勝からこの書を贈られ、再開したという。江戸から東京へ時代は変わっても、名士が愛した味を守り続ける。

(文・写真 下島智子)


 ◆東京都文京区本郷3の42の8(TEL03・3811・4645)。午前9時~午後6時((土)(祝)は5時まで)。原則(日)休み。本郷三丁目駅。

(2017年12月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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