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菊一伊助商店@鎌倉

研ぎ師の手でよみがえる刃

水を張った木製の桶(おけ)の上に、砥石を置いて刃物を研ぐ
水を張った木製の桶(おけ)の上に、砥石を置いて刃物を研ぐ
水を張った木製の桶(おけ)の上に、砥石を置いて刃物を研ぐ 包丁を研ぐ4代目の手元。削れた砥石が爪の中まで入り、洗っても落ちないのだという。研ぎの料金は家庭包丁800円から

 新旧の町並みが混在する古都・鎌倉。観光客が行き交う由比ガ浜商店街に、刃物研ぎの専門店「菊一伊助商店」がある。シュルシュルシュル……という独特の研ぎ音が響く店内では、3代目の菊一公明(ひろあき)さん(72)と長男の4代目が並んで包丁を研いでいる。

 創業は1902年。当時は横浜市の野毛地区にあり、仕事は旧陸軍の軍刀研ぎが中心だった。公明さんは中学卒業と同時に修業を始め、包丁や彫刻刀、ハサミなど刃物全般を扱う。鎌倉に店を移したのは91年だ。「元々、鎌倉にはお得意さんが多かった。職人だけでなく、家庭でも包丁を長く使い続ける人が多いこの土地に、研ぎの仕事は合っていると思った」と公明さん。

 刃物研ぎに使う砥石(といし)は、粒子の粗いものから順に細かいものに換える。工程を重ねることで、刃が滑らかに仕上がるのだ。「機械が仕上げた包丁でも切れる。ただ、手研ぎをすれば切れ味が変わる」。現在、注文は2人では追いつかないほどの数だという。

 研ぎ師の手から持ち主の手へ。思いが入る刃は鋭く、よく切れる。

(文・写真 町田あさ美)


 ◆神奈川県鎌倉市由比ガ浜1の3の7(TEL0467・23・0122)。午前9時~午後6時。(水)と12月31日~1月5日休み。鎌倉駅。

(2017年12月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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