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夜空の饗宴(きょうえん) 
矢橋六郎作(名古屋市中区)

生き残るモザイク壁画

天井にあるモザイク壁画は珍しい=松谷常弘撮影
天井にあるモザイク壁画は珍しい=松谷常弘撮影
天井にあるモザイク壁画は珍しい=松谷常弘撮影 近くのCBC会館のモザイク壁画「芸術と平和」(1959年設置)。原画は画家の北川民次。18種類の大理石を使っている=松谷常弘撮影

 名古屋の繁華街・栄地区に立つ中部日本ビルディング(中日ビル)。通りの喧騒(けんそう)を背に中へ入ると、2階まで吹き抜けの天井に鮮やかな「空」が広がった。縦約10メートル、横約20メートルのモザイク壁画「夜空の饗宴」だ。

 岐阜県出身の洋画家、矢橋六郎(1905~88)が、66年のビル開業に合わせて制作。天体を題材に、星のきらめきや飛び交う天使などを表現した。2階へ上がると間近に見える。一辺1~2センチほどの伊ベネチア製モザイクガラス約100種類100万個以上のほか、大理石や磁器タイルも使っている。「矢橋さんの色の置き方に感服した」と、東京芸大生時代に制作に参加した前岐阜県美術館館長の古川秀昭さん(74)は振り返る。

 矢橋は実家が石材店だったことから他にも多くのモザイク壁画を手がけた。モザイク作家の喜井豊治さん(65)によると、日本の建築に絵画的なモザイク壁画が盛んに取り入れられ始めたのは60年代。64年の東京オリンピック前後が圧倒的に多いという。その頃の壁画のほとんどは、建て替えなどで解体される建物と共に消える運命だ。中日ビルも来年3月で閉館するが、先月、このモザイク壁画を新ビルに移す方針が発表された。

 愛知県豊田市在住でモザイク愛好家の森上千穂さん(50)は「残されるのはうれしいけど、今のこの空間に思い出があるので寂しいですね」。

(牧野祥)

 中日ビル

 劇場(3月に閉鎖)、文化教室(移転済み)、飲食店、事務所などからなる複合施設。名古屋中心部に「文化の殿堂を」と建設され、1966年に完成した。地下4階・地上12階・塔屋4階建て。最上階にはかつて回転する展望レストランも営業していた。現在のビル解体後はホテル、オフィス、商業テナントを備えた、高さ約170メートルの超高層ビルを建設予定で、2024年度の開業を見込む。

 《アクセス》栄駅地下街12・13番出口からすぐ。


ぶらり発見

中日ビルケーキ

 カフェ「サンモリッツ」の中日ビル店(TEL052・261・8939)では、同ビルを模した中日ビルケーキ写真、ドリンクとセットで1000円)を販売中。生チョコを使ったムースで1日5食限定。午前9時~午後9時。同店は2019年1月末に閉店。

 名古屋渋ビル手帖(B6判、500円)は、名古屋の渋いビルを紹介する小冊子。女性2人による「名古屋渋ビル研究会」が年1回ほど制作する。「中日ビル特集号」も今夏発行した。栄駅から徒歩5分の丸善名古屋本店(TEL238・0320)など一部書店で購入できる。

(2018年12月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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