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辻恵子さん(切り絵作家)
「ワンダーランド駅で」(1998年)

おしゃれな出会い 偶然は必然

 辻恵子さん(切り絵作家)「ワンダーランド駅で」(1998年)

 

 ベタベタの恋愛物語ではなく、2人の男女が出会うまでという描き方が、おしゃれ。また偶然と思える全ては、必然と思わせてくれる映画です。

 ボストンの地下鉄が舞台。夜勤看護師のエリンと配管工のアランは、毎日、ワンダーランド駅行きの同じ路線に乗り、通勤していました。でも出会えそうで出会えない。アランは配管工をしつつ海洋生物学者を目指し、現状を変えようと能動的。失恋したばかりのエリンは、周囲の言葉に受動的で諦めモードなんです。

 絵は、アランがボランティアで働く水族館をエリンが訪れた場面です。美しいエリンに見とれるアラン。対面しても目が合わず、すれ違う様子を描きました。

 自分を幸せにできるのは自分だけと言い張るエリン。そんな娘を心配した母親が、新聞で娘の恋人募集を勝手に告知する。エリンにいい格好を見せる男性たちの姿が滑稽で。その後、行きずりの人についていこうとした日、アランと出会い揺れ動く。登場人物のセリフに度々出てくるのが、米詩人エマソンの「頑固さは狭量なる心の表れ」という言葉。エリンにとってどれが正解という事はなく、フレキシブルでいいのではと思えました。

 専門学校を卒業した頃、この映画を見ました。進路を模索中でしたが、たまたま訪れた母校の学園祭で、校内の画廊を1カ月後に使えることが判明。初個展を開くと、仕事が舞い込んできたんです。それが絵描きの原点。偶然って恋愛だけじゃないんですよ。

聞き手・石井広子

 

  監督・共同脚本=ブラッド・アンダーソン
   製作=米
   出演=ホープ・デイビス、アラン・ゲルファントほか
つじ・けいこ
 NHK朝ドラ「とと姉ちゃん」のオープニングの貼り絵を手がけた。絵本「かげはどこ」、10月28日発売の書籍「月整活(つきせいかつ)」のイラストも。
(2016年10月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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