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村上豊さん(画家)
「用心棒」(1961年)

女たちの踊り 強烈な印象

村上豊さん(画家) 「用心棒」(1961年)

 二つの博徒の勢力が抗争を繰り返し、荒れ果てた北関東の宿場町。そこへ現れた浪人が、この悪者同士を闘わせて――。三船敏郎演じる浪人は、道に投げた木の枝の向きで行き先を決めるいい加減な男。名前を聞かれると、広がる桑畑を見て「桑畑三十郎」「そろそろ四十郎だがな」と言う。なんともいえないユーモアだね。黒澤監督は、作るのが面白くてしょうがないんだな、と感じます。

 娯楽作品ですが、暮らしの切実さも見える。飯屋のじいさん、棺おけ屋、人物それぞれに味わいがある。三船自身の粗野なところも生きています。公開時に見てからもう何回見たかな。とくに好きなのが、三十郎が用心棒として売り込んでいた組で歓待される場面。交渉事の最後に突然、大柄な遊女が出てきてチャンチャカ踊る。田舎っぽくてね。強烈で印象的です。あまり重要でない場面をわざわざ持ってきて、異質な空気をポンと差し込む。黒澤監督のにくいところです。

 絵描きのせいか、映画は人物がいる「風景」なんです。ストーリーや役者よりも、作品世界に興味が行く。挿絵の仕事では、まず作家が何を言いたいのかを考えます。でも、文章と同じものを描いて、説明する必要はないんです。雰囲気が分かればいい。見えない部分に何があるか、僕なりに表現してきました。映画にはありませんが、遊女の踊りを見た三十郎は「げー」っとなって、ひっくりかえるんじゃないかな。これはそんな想像です。

聞き手・小寺美保子

 

  監督・共同脚本=黒澤明
  出演=三船敏郎、仲代達矢、東野英治郎、山田五十鈴ほか
むらかみ・ゆたか 
 向田邦子、五木寛之ら多くの文筆家の挿絵や装丁を手掛ける。来秋、東京・銀座の和光ホールで個展を予定。
(2017年11月10日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)