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6年ぶりに見たミュージカル「レ・ミゼラブル」 格段に深まった思い

6年ぶりにミュージカル「レ・ミゼラブル」(レミゼ)を観劇しました。3月25日。もうすぐ桜も満開になりそうな、街に満ちる空気も「春だなぁ〜」という1日でした。

前回、観劇したときは高校2年生。そのときと同じ梅田芸術劇場(大阪・梅田)で。 6年前、少女コゼットを演じていたのは、当時アイドルグループ乃木坂46の生田絵梨花さんでした。 愛らしくけなげなコゼットの雰囲気と、澄み渡るような歌声を今でもはっきりと覚えています。 そして今回は、コゼットの母親ファンティーヌの役をつとめられていました。

娘コゼットを守り、貧しさの中にも気高く生きようとする姿。病に倒れ、ジャン・バルジャンに娘を託す切ない心情。 6年前より、もっともっと圧倒的な何かを生田さんのファンティーヌから感じました。 3階席の後ろの方で観劇した6年前、今回はありがたいことに1階席の前方。ステージとの距離の近さのおかげ? それもあったかもしれませんが、私が感じたのは、時間が人に授ける力の大きさでした

 

 ミュージカル「レ・ミゼラブル」の一場面=東宝演劇部提供

「レミゼ」は、19世紀前半のフランスが舞台です。ビクトル・ユゴーの同名の長編小説(1862年出版)を原作としたミュージカルで、物語の中心になっているのは、若い頃にひとかけらのパンを盗んだことがきっかけで素性を伏せて人生を生きることになったジャン・バルジャンと、彼をどこまでも追い続ける執念の警察官ジャベールです。

この二人のせめぎ合いを軸に当時のフランス社会の貧困と不平等、そしてその中で革命の理想を追い求めて生きる人々たちの運命が交錯するのです。

開演の音楽が流れた瞬間から鳥肌が立ち、一気に作品の中へ引き込まれました。「これがレ・ミゼラブルだ」と。次々と流れる名曲に胸の高鳴りが止まらず、ずっと感情が揺れていた気がします。

6年前に観たのと同じミュージカル、同じ劇場。ですが、胸にわきあがってくる感情、場面ごとに感じる思いは、高校生の頃に比べて格段に深まっていました。私は演者さんの表情を見るのが好きで、前の方の席でもオペラグラスを使ってしまいます。細かい目の動きや震える口元、こぼれる涙が見え、「ああ、役者さんってすごいな」と心が揺さぶられました。

特に印象に残ったのが、青年革命家マリウスに片思いしていたエポニーヌが銃弾を浴び、マリウスの腕の中で亡くなる場面と、アンジョルラスたち革命を志した若き仲間たちが政府軍との戦闘で次々に倒れていく場面。

前者の場面では、エポニーヌの「おだやかだわ……」という歌詞が悲しく美しく響き、心が締めつけられました。高校生の頃に見たときの感情は、ただただ「ああ、報われなかった恋。」というものでした。でも、今回の観劇では「大好きな人に見守られて、最後の瞬間を大好きな人の腕の中で迎え、その人の記憶の中で永遠に生きる」ことに幸せを見いだそうとしたエポニーヌの心が歌声から感じられるような気がして、はっとしました。

 

梅田芸術劇場

アイドルとしての私も、必ずしも順風満帆とばかりはいきませんでした。望みや願いがすべてかなったわけではありませんし、悔しいこともたくさん経験しました。

ですが、卒業公演の日、私を応援してくださった方々、私を好きでいてくださったファンの皆様、大切なメンバーがたくさんの笑顔と涙で私を送り出してくださいました。「大好きな人たちに見送ってもらえて、私は幸せなアイドルだった」と心から思えました。

そして、銃弾に倒れた青年革命家たちの姿です。

劇場に響く大きな銃声が、心に突き刺さるようでした。「どうして命を粗末にするのか。投降せよ」とバリケードの向こうから呼びかける政府軍。聞き入れない若者たち。正義と正義のぶつかり合い、そして流れる血。英雄的に生き、英雄的に倒れることを望む若い革命家たち。若さゆえに理想に純粋で、でも、あまりにも最期はあっけなくて。どっちが正しくて、どっちが間違っているというのではありません。ただただ、胸が張り裂けるような場面でした。

終盤。老いたジャン・バルジャンが病の床についています。亡きファンティーヌが迎えに来て、コゼットとマリウスに見守られながら旅立ちます。今回、息ができなくなるくらいに泣いた場面です。この6年の間に、今はすっかり快復していますが父が病気をして心配な気持ちになったり、上述したようにアイドルとしての活動、そして卒業を経験したりと、様々な感情を通り抜けてきました。時間という大きな力で、私自身も6年前とはまた違った感性と感覚をもっていました。

 

佐月さんがSNSに投稿した写真

そして今回は、個人的にも特別な時間でした。高校時代、舞台芸術専攻に通っていた私の1つ上の先輩、北村沙羅さんがアンサンブルで出演されていたのです。

高校生のときから歌もダンスもすごくお上手で、どこにいても目を引く存在でした。久しぶりに舞台上でのお姿を見て、あの頃よりさらに輝きが増していて、沙羅さんが舞台に出てこられるたび、自然と目で追ってしまいました。

「レ・ミゼラブル」は大きな戦争の話ですが、今の私たちが生きているこの時代にも通じることがいっぱいあると思います。

SNSや学校、仕事。小さくて大きな社会の中で、誰かが誰かを責めたり、理不尽に追い詰められたり、居場所を失うこともあります。そういう場所に生きているからこそ、「声を上げていいんだ」と思わせてくれる作品だと感じました。小さな声でも、ちゃんと届くかもしれない。そう思わせてくれる力がこの作品にはあると思います。絶望の中にも、誰かの優しさや想いがあること。救われる瞬間がちゃんとあること。レ・ミゼラブルは、それを感じさせてくれる舞台でした。今この時代に観られてよかった。そう思える、心に残る観劇でした。

 

佐月愛果(さつき・あいか) 2002年生まれ、大阪府出身。6歳からミュージカルを始める。2020~24年にアイドルグループNMB48に在籍。

◆ミュージカル「レ・ミゼラブル」は30日まで福岡・博多座で。その後は5月9日~15日に長野県松本市のまつもと市民劇場、5月25日~6月2日は北海道・札幌文化芸術劇場、6月12日~16日は群馬県高崎市の高崎芸術劇場。