神保町の味さんぽ2回目は、この地で長らく愛されてきた洋菓子店をご紹介したいと思います。神保町駅のA5出口を出たら、目の前の靖国通りを左へ。小川町駅方面に数十メートル進むと、最初の角に見えてくる「柏水堂」です。
1929年から続いているという老舗。南を向いたガラス張りのエントランスには柔らかな日差しが差し込み、とても明るく清潔です。初めてでも気兼ねなく、ふらっと立ち寄ることができるでしょう。
そして広々とした店内に足を踏み入れると、そこでまた感動するはず。なぜって磨き上げられたガラスケースに上品なケーキがズラリと並ぶ光景は、いかにも「昔ながらの洋菓子店」だから。「小さいころ、こういうケーキ屋さんに連れて行ってもらったのがうれしかったなぁ」と、遠い昔を思い出すことができるというわけです。
さて、ケーキを見てみましょう。柏水堂を代表する人気メニューといえば、その名のとおりプードル犬の形をしたプードルケーキ(380円)です。数あるケーキのなかでは比較的新しい商品だといいますが、それでも誕生したのは30~40年前。歴史を感じさせますね。
これは当時の職人さんが戌年にちなんで考案したもので、その頃から人気の犬種、プードルケーキになったのだそう。
プードルケーキは外見だけでなく、味も魅力的です。ひとことで言えば、子どものころに食べたケーキの味がするのです。その理由は、生クリームではなくバタークリームを使用しているから。また、マドレーヌと同じだという生地もふんわり柔らかく、食べていると幸せな気分になれます。見た目がかわいらしいだけに「食べるのがかわいそう」と感じさせてしまうのが玉に傷ですが(笑)、時々、無性に食べたくなる味。
ちなみにこのプードルケーキは、2000年代に入ってからリバイバルヒットしたことがあります。理由は、漫画「ハチミツとクローバー」に登場したから。それがきっかけで、かわいらしいルックスが若い人に大きく支持されることになったのです。そんなこともあって、平日は取引先へのおみやげに利用する社会人の方、土曜日は若いカップル客が多いといいます。また、たくさんの量をテークアウトしていく方も目立つとか。
ただし、人気商品はこれだけではありません。モカ・バニラ・チョコと3種の小さなシュークリームが入っているトリオシュークリーム(400円)や、一般的にはサバランと呼ばれているセ・アルジャン(420円)など、個性的でおいしいケーキがたくさん。どれも選び抜かれた最高の素材を世界各地から取り寄せ、ていねいに手作りされています。
なお、もし時間があれば、店内奥の喫茶スペースで一息つくのもいいでしょう。創業当時から使っているというステンドグラスやランプ、小さいけれど重厚なカウンター、アールデコ調の椅子など、すべてがレトロで懐かしい雰囲気で、とても落ち着くから。プードルケーキと紅茶を楽しみながら外を眺めていると、数十年前にタイムスリップしたような気分になれるかもしれません。
(印南敦史)
■柏水堂
東京都千代田区神田神保町1-10
TEL:03-3295-1208
営業時間:午前9:30~午後7:00
休み:日曜・祝日・年末年始
プードルケーキは3階の工場でつくられるので、売り切れの心配はなし(数の多い場合は予約をおすすめします)。またバタークリームなので、2日程度なら悪くならないそうです。