読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
63プレゼント

「月の顔」岡本太郎作(福井県越前町)

違和感が生む魅力

白い「月の顔」が緑に映える=横関一浩撮影
白い「月の顔」が緑に映える=横関一浩撮影
白い「月の顔」が緑に映える=横関一浩撮影 イサム・ノグチ作「アトミック ヘイスティック」=横関一浩撮影

 「芸術は民衆(ピープル)のもの」。岡本太郎(1911~96)はこの信念を貫いた。太陽の光のように無償で皆に与えられるべきものという。それを表すように各地の公園や広場に作品が残る。

 福井県越前町の自然に囲まれた広大な公園の小高い丘の上で、風に吹かれながらツンとした表情で空を見上げる「月の顔」もその一つだ。

 太郎と交流があった勅使河原宏・草月流3代家元が、越前陶芸村に窯を持っていたことから、太郎もこの地を何度か訪れ、陶芸に挑戦した。太郎は旧宮崎村の村制100年記念で陶芸村の公園に複数の彫刻を置く計画を勅使河原から聞いた。依頼を受けるより先に「白い大きい月の顔が浮かんで、天空の月と相対し、呼応している光景」が、瞬時にひらめいたそうだ。

 作品は見る角度によって全く表情が異なり、三日月形に見える角度もある。川崎市岡本太郎美術館の大杉浩司さんによると、これは男と女の横顔を表し、「二つの横顔が一体になって初めて完全体になる」というのが太郎の理念だった。必ず現地に赴いてから手がけたという作品は「なぜここでなければならないのか」が考え抜かれた造形だ。一方で、その空間に溶け込むことのない個性を放つ。「違和感があればあるほど印象づけられる。それこそが作品の強さであり魅力です」

(神谷実里)

     ◇

 身近なアートを訪ねて旅をします。

 越前陶芸村

 越前陶芸村のある越前町は、陶土や陶石の資源が豊富で古くから窯業(ようぎょう)が盛ん。越前焼は、常滑焼などと並ぶ日本六古窯の一つ。村内には越前焼の歴史が学べる福井県陶芸館(TEL0778・32・2174)や直売所などがある。公園にはイサム・ノグチらの作品15点が点在する。

 《アクセス》 JR武生駅か福井鉄道福武線神明駅からバス、タクシーで約30分(バスは1日6~10本、(土)(日)(祝)は運休あり)。車は北陸道武生、鯖江インターから約30分。


ぶらり発見

西山公園

 武生インターから車で約20分。おもいでなfarm(TEL0778・32・3545)は、越前町宮崎地区の新鮮な野菜や工芸品などの直売所。隣接するレストランでは特産のタケノコやタンチョウモチを使った料理を提供する。

 西山公園駅から徒歩3分。鯖江市の西山公園(TEL0778・51・1001)は日本の歴史公園100選に選ばれている。今月上旬は桜、5月上旬には約5万株のツツジが彩る=写真は資料。展望台からは市街地や山々を一望。園内に小さな動物園があり、レッサーパンダが出迎える。

(2016年4月5日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)