名古屋大学東山キャンパスの一角。全学教育棟の中庭を歩くと、壁や窓のあちこちに断片的な赤い線が描かれている。が、ある地点に立つと、これらの線がつながり、放射線状に伸びる10本の直線が浮かび上がった。
立体的な建築空間を平面に変えるこの錯視アートは、仏在住の現代美術家フェリーチェ・ヴァリーニ(1952年~)によるものだ。2008年の校舎改修時、教職員とパブリックアートに関心を持つ学生の有志グループから依頼され、制作した。
「ある瞬間だけ整然とした姿を現すが、普段は全容を予測できない。この作品を見る人は、絶えず変化に遭遇するのです」と、ヴァリーニ氏。当時、大学院生としてアート設置に携わった野中祐美子さん(35)によると、「平面作品に見えるポイントを探す過程で、多くの新しい視点や見どころを見つけてほしい」のだという。
制作期間は8日間。来日したヴァリーニ氏は、高所作業車を操りながらプロジェクターで壁や柱に直線を投影。鉛筆でトレースした後、ペンキを塗った。間近で見ていた野中さんは、「細かい作業も妥協せず、プロの矜持(きょうじ)を感じた」と話す。
「大胆なのに違和感がないですね」。新入生の松浦和音(かずね)さん(18)が、仲間と談笑しながら作品を見上げた。彼らの視線が、赤い直線に重なった。
(曽根牧子)
名大アート散策 理工系のイメージが強い名大だが、キャンパス内には芸術作品が少なくない。全学教育棟にはプロジェクトギャラリー「clas」があり、5月20日まで「インドネシア現代美術と美術家」展を開催。2001年の野依良治教授(当時)のノーベル化学賞受賞を記念して建てられた野依記念物質科学研究館2階には、門下生らが寄贈したロイ・リキテンスタインの版画が掛かる。 《アクセス》 地下鉄名城線の名古屋大学駅直結。 |
名大の広い敷地を歩き疲れたら、全学教育棟北棟2階のフォノンカフェルーム(TEL052・781・2022)でひと休み。大阪のデザイン集団「graf(グラフ)」が作った家具に囲まれ、落ち着いた空間だ。朝は350円でパン、卵、コーヒーが食べ・飲み放題。午前9時~午後8時、(土)(日)(祝)休み。
名大から約1キロの場所には、東山動植物園(TEL782・2111)がある。「イケメンゴリラ」のシャバーニ=写真=人気で、入園者数が大きく伸びた動物園では、昨夏に生まれたキリンの赤ちゃんがすくすく育っている。高校生以上500円。午前9時~午後4時半、(月)休み。