レモン色の「飛び込み台」から、こんがりと日焼けをした男の子が、真っ先に海に向かってジャンプした。瀬戸内海に浮かぶ人口約9800人の生口(いくち)島。入り江に子どもたちの元気な声が響き渡る。
本作は1996年の第4回「せとだビエンナーレ」の出品作。制作依頼を受け、島を回っていた作者の川上喜三郎さん(70)は、ある海辺の光景に足を止めた。「小学校が隣接する小さな入り江。階段状の防波堤に囲まれ、まるで野外劇場のよう。そこで泳ぐ少年少女の輝く笑顔が印象的でした」
地方の過疎化が進む時代に生きる子どもたちへの贈り物にと、飛び込み台やステージになる作品をこの地につくることに決めた。ベルベデールとは「見晴らしのいいあずまや」。イタリア語が起源だ。作品は引き潮では砂浜にたたずみ、満潮になると穏やかな波に囲まれる。
ビエンナーレは、合併前の瀬戸田町長だった和氣成祥さん(87)が観光と文化を軸にした町おこしの一環で立ち上げた。「島に人を呼ぶには、都会の人の目にかなうものをつくらなければならない」。いわゆる「アートの島」の先駆けだった。
設置から20年。過疎化は進み、隣接の小学校は3年前に廃校になったが、今もこの入り江には、子どもたちの笑顔が絶えない。
(渡辺香)
島ごと美術館 瀬戸田町で1989年から5回開催された野外彫刻展「せとだビエンナーレ」。生口島、高根島に計17作品を設置。「島ごと美術館」という総称で常設展示されている。島々をつなぐ瀬戸内しまなみ海道の利用者にも人気。本作を舞台に9月17日(土)、観月会を開催(荒天中止)。問い合わせは瀬戸田支所しまおこし課(0845・27・2212)。 《作品へのアクセス》 瀬戸田港からバスで約20分。しまなみ海道生口島北インターから車で約10分。 |
浄土真宗本願寺派耕三寺の境内の奥、街を見下ろす高台に造られた大理石庭園未来心の丘(写真、TEL0845・27・0800)。彫刻家・杭谷一東氏の設計・制作。青い空と純白の世界が広がる。入場料1400円ほか。
柑橘(かんきつ)類の生産が盛んで、レモンの一大産地としても知られる生口島。海水浴にシーカヤックやバーベキューも楽しめる瀬戸田サンセットビーチ(TEL27・1100)では、地元ジェラート店・ドルチェの「瀬戸田レモン」(300円)がおすすめ。甘酸っぱい夏の味。絶景の夕日とともに堪能して。