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祖谷渓の小便小僧 
河崎良行作(徳島県三好市)

度胸試しの代役担う

「身長」は1メートル強。10月下旬になると渓谷は紅葉に染まる=楠本涼撮影
「身長」は1メートル強。10月下旬になると渓谷は紅葉に染まる=楠本涼撮影
「身長」は1メートル強。10月下旬になると渓谷は紅葉に染まる=楠本涼撮影 「天空の村・かかしの里」に点在する人形の一つ=楠本涼撮影

 四国の秘境・祖谷(いや)へ続く曲がりくねった街道を車で上っていく。「七曲がり」と言われる難所の途中で、車を止めた観光客がカメラを手に降り立った。辺りは深いV字谷の祖谷渓だ。

 群がる観光客の視線の先。断崖から突き出た畳1畳ほどの岩の先端で、「小僧」が谷に向かって用を足していた。約200メートル下には、エメラルド色の川面が見える。この岩は、かつて旅人や地元の若者らが度胸試しに立ち小便をしたという逸話から「小便岩」と呼ばれる。「大自然を前に用を足す開放感で、つい……。風で尿が霧状になって下まで到達しなかった」と、高校生の頃に試したという地元の男性(56)は笑った。

 とは言え、高所からの放尿は危険だ。その抑止を願って、ブロンズの小僧がやって来たのは1968年。「観光資源を兼ね、度胸試しの代役にと、当時の副知事が設置を考えたそうです」と市観光課の藤原恵美さん(53)。制作した彫刻家の河崎良行さん(80)は、「4歳の息子をモデルに存在感のあるリアルさを追究した」と振り返る。「岩が渓谷と彫刻をつなぐステージのような役割を果たしている。渓谷美を望む『アイストップ』(目印)にもなったのでは」

 小僧は今、観光客たちの歓声をよそに、柵に遮られた場所で一人、悠々と度胸試しを続けている。

(牧野祥)

 祖谷地区

 4町2村が合併してできた三好市の西祖谷山村と東祖谷を合わせた地区。日本三大秘境の一つとされる。東祖谷の名頃集落は、等身大の人形があちこちに置かれ、「天空の村・かかしの里」と呼ばれている。同集落に住む綾野月美さん(67)が13年ほど前から制作。住民は約40人だが、人形は現在約160体もある。

 《作品へのアクセス》 阿波池田駅からバスで53分(1日3本)。徳島道井川池田インターから車で約50分。


ぶらり発見

ハレとケ珈琲

 祖谷口駅から車で約10分のハレとケ珈琲(TEL0883・75・2208)は、廃校になった小学校を利用したカフェ。飲み物や5、6種類のピザ(800円から)などを提供する=写真。(祝)を除く(水)(木)休み。ドミトリーを併設しており、平日素泊まり1泊3800円(日帰り温泉チケット付き)から。寝袋持ち込みプランは1千円。

 隣の阿波川口駅がある三好市山城町は、妖怪「児啼爺(こなきじじい)」発祥の地とされ、妖怪やつきもの60種の伝説が残る。毎月第3(日)、妖怪の里歩きツアーを開催(2人から要予約。1人2700円)。問い合わせはそらの郷(76・0713)。

(2016年9月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)