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やかん体、転倒する。 
三枝一将作(金沢市)

温かさ伝えるアイコン

腰掛ける人たちで周囲がぐるりと囲まれることも=楠本涼撮影
腰掛ける人たちで周囲がぐるりと囲まれることも=楠本涼撮影
腰掛ける人たちで周囲がぐるりと囲まれることも=楠本涼撮影 アートアベニュー沿いにある郡順治の作「走れ!」=楠本涼撮影

 金沢駅のシンボル、鼓門(つづみもん)を望む東口の一角。傾いて地に埋まる巨大なやかんの周辺に、人々が腰を掛け憩う。高さ約1.7×幅約2.4メートルの真鍮(しんちゅう)製。鈍い金色の光沢、黒い持ち手、留め金……どこを見ても台所にあるそれだ。傍らにはふたもある。

 金沢の街を彫刻で彩ろうと、市が2006年に募集した国際コンペの最優秀作品。生活と芸術の橋渡しになると評価され、国内外からの応募470点から審査員の満場一致で選ばれた。総評には「ぬくもりがあり、金沢を訪れる方々にまちの温かさを伝えられる」とある。「やかんですからね」。市企画調整課の新保博之さん(51)が笑う。

 加賀百万石の歴史ある城下町に出現した現代アート。「伝統を守るだけではただの伝承。革新の息吹を与えることで伝統が進化し、新しい金沢の魅力になるという考えがありました」と新保さんは説明する。

 作者の三枝一将さん(44)は、設置時に比べて「使い込まれたいい風合いになった」と目を細める。やかんの形を少し潰して漫画的に平面化した。街なかに「お茶の間感」を登場させる面白さを狙ったという。「じゃあ、やかんの前で」が友人との合言葉と言うのは地元の20代女性。今やすっかり街の名物だ。三枝さんは言う。「単純なものには、そんなアイコンになる力があるんです」

(中村さやか)

 アートアベニュー

 金沢駅と金沢21世紀美術館を結ぶ約2キロの道路。「やかん体」など「金沢・まちなか彫刻作品・国際コンペティション」(2004年と06年に実施)の入賞作7点を始め多くの彫刻が並ぶ。

 金沢市内には約170の屋外作品があるという。「私有地に置かれた物もあり、維持管理が問題」と言うのは金沢美術工芸大学大学院の横山勝彦教授(62)。地域の彫刻に注目して欲しいと、昨年学生らと「やかん体」の清掃活動をした。


ぶらり発見

加賀八幡起上(おきあが)り

 石川県の北陸新幹線開業PRキャラクターのモチーフにもなった郷土玩具「加賀八幡起上(おきあが)り」。金沢駅から徒歩15分、中島めんや(TEL076・232・1818)では絵付け体験ができる。小=写真=648円、大1080円。松竹梅を描いた縁起物を旅の土産に。要予約

 ご当地グルメの「ハントンライス」は、オムライスの上に魚のフライやタルタルソースなどがのった洋食。中心市街地にある、1957年創業のグリルオーツカ(TEL221・2646)では、カジキマグロとエビのフライをトッピングした、ボリュームたっぷりの一皿が味わえる。

(2016年11月1日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)