雪と静寂に覆われた森。小高い丘の斜面に五つの白い帆が並ぶ。周囲の木々がざわめき出すと、帆は音もなく揺らぎ、回転を始めた。
札幌市郊外にある札幌芸術の森野外美術館。森の入り口の丘陵に1990年に設置された本作は、舟の帆がモチーフだ。テフロン製の帆は袋状になっており、斜面に吹く風を受け止める。ステンレス製の軸の角度の違いや風の当たり具合で、帆はそれぞれに違った動きをする。「風向きは同じなのに、回り方が違うのが不思議だね」。森が散歩コースという大野勝さん(77)は楽しげにそう話す。
作者の新宮晋さん(79)は、風や水などの自然エネルギーを利用した作品で知られる造形作家。制作依頼を受け現地を訪れた新宮さんは、この丘に魅了された。「目を閉じると、白い帆が丘を徐々に登り、やがて雲になって空に浮かぶイメージが湧きました」。斜面の一番下にある帆は高さ4.6メートル、一番上が3.8メートルと、頂上に行くほど小さくつくることで遠近感を誇張。丘の高さを一層際立たせた。「地球がいかにユニークで魅力に富んだ星か。長年作品をつくり続ける中で、そう感じています」
雪原の丘に、また風が吹き抜ける。その訪れを喜ぶかのように、帆は右へ左へ体を揺らし、風と戯れていた。
(渡辺香)
札幌芸術の森 「さっぽろアートパーク構想」の一環で1986年にオープン。40ヘクタールの敷地に屋内・野外美術館のほか、工芸館、クラフト工房などが立ち並ぶ。野外美術館には国内外64作家の作品が点在し、冬季は無料開放する。隣接する芸術の森センター(TEL011・592・5111)で、無料で輪かんじきを借り、雪の中を散策しながら作品を鑑賞できる「かんじきウォーク」を実施中(3月中旬まで)。 《アクセス》 地下鉄真駒内駅からバスで15分、「芸術の森センター」下車すぐ。 |
芸術の森センター2階にあるレストラン「畑のはる」(TEL011・215・1778)では、北海道の食材をとり入れたランチビュッフェ(1620円ほか)が味わえる。野菜中心のメニューで幅広い世代に人気。パノラマの窓越しに、本作「雲の牧場」が望める。
1月28日(土)午前10時、芸術の森敷地内で毎年恒例の「雪あかりの祭典」を開催。町内会と連携した、餅つき大会やクラフト体験などが楽しめる。午後4時半から、数百個のしずく型アイスキャンドル=写真は昨年=が点灯する。問い合わせは芸術の森センターへ。