「本船はまもなく、宮浦港に入港いたします」。船内アナウンスに顔を上げた。窓の外は夕闇だ。瀬戸内海に浮かぶ人口約3千人の島、直島。フェリーの玄関口である宮浦港の海際に、白い光が浮かんでいた。
光の正体は、建築家の藤本壮介さん(45)が手がけた「直島パヴィリオン」。高さ7メートル×幅9メートルの多面体で、約250枚の白い金網でできている。大小27の島々からなる直島町の「28番目の島」がコンセプトだ。
近づき、中に入る。でこぼことした段差に腰をかけると、白い繭に包まれたような安心感を感じた。「気軽に人が集まって、話をしたり、読書をしたり。そんな場所を作りたかった」と藤本さんは話す。「見慣れた空や山、そして人が、作品を通して全く違って見える。そんな体験も楽しんでほしい」
夜の潮風で体が冷え、港のそばの居酒屋に立ち寄った。島で生まれ育ったという店長の竹林良雄さん(69)が、「孫たちが来ると、必ずあの作品で遊ぶんだ」と教えてくれた。「アートの島」として活気づく故郷の島が彼の誇りだ。「旅行者と接して、お年寄りの顔も明るくなった」
翌日、再び作品を訪れると、外国人観光客が見守る中、地元の小学生たちが中で鬼ごっこをしていた。のどかさと国際性が入り交じる風景に不思議な感慨を覚えながら、フェリーで島を後にした。
(中村茉莉花)
直島 1992年、安藤忠雄設計の美術館兼ホテルを、ベネッセコーポレーションが島の南部に建設。98年、美術家による古民家再生プロジェクトも始まり、アートと自然が融合する島として徐々に注目を集める。2010年にスタートした「瀬戸内国際芸術祭」は、直島を含む12の島々で3年に1度開催。「直島パヴィリオン」は、直島町の施行60周年を記念し、15年3月に設置された。 《アクセス》香川・高松港、岡山・宇野港などからフェリーまたは高速船。 |
古くから塩作りが盛んだった直島。宮浦港の土産売り場では、「直島太陽塩 SOLASHIO」(500円)が人気だ。瀬戸内海の海水から太陽の熱だけで作られ、ミネラルが豊富。問い合わせは観光協会(087・892・2299)。
宮浦港から徒歩3分。直島銭湯「I♥湯」(TEL892・2626)は、現代美術家・大竹伸朗が手がけた実際に入浴できる美術施設=写真。外観から内装、浴室、風呂おけやタオルにいたるまで、大竹の世界観にどっぷりつかることができる。入湯料510円。(月)休み。