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きりこボード 
ENVISI作(宮城県南三陸町)

またここで 物語を紡ぐ

佐藤信一さんの写真館のきりこボード=横関一浩撮影
佐藤信一さんの写真館のきりこボード=横関一浩撮影
佐藤信一さんの写真館のきりこボード=横関一浩撮影 東日本大震災前の2010年夏、写真館の軒先に揺れる紙のきりこ=吉川由美さん提供

 宝船や魚、カモメ柄のTシャツ……。左右対称の絵が切り抜かれた白いボードが28枚、南三陸ポータルセンターの前に立っている。それぞれ、そば店や鮮魚店、洋品店などの物語を表したボードだ。様々な経緯で、この場所にやってきた。

 始まりは2010年夏。南三陸の家々が神棚に飾る切り紙「キリコ」から発想した町おこし企画が立ち上がった。女性の視点を生かした企画で、地元女性が商店街で聞いた逸話をもとに650枚もの「きりこ」を半紙で切り、軒先に飾った。「笑顔の記念写真を撮るのが喜び」と語った佐藤信一さん(51)の写真館の店先には、カメラを囲む家族を描いたきりこの紙が揺れた。

 その半年後、町は地震と津波に襲われ、約5千戸の家屋のうち3143戸が全壊した。「薄れていく記憶を細々とでもつなぎたい」と、当初から企画に関わるアート系まちづくり団体ENVISI(エンビジ)の吉川由美さん(58)。12年夏、アルミ複合板で再現したきりこを家々の跡地に並べた。菅原栄子さん(60)は、もう何も建たないと思っていた、かつての洋品店の土地の前で「家が建つよりうれしい」と涙ぐんだ。

 かさ上げ工事に伴い、13年にボードはポータルセンター前に。そのかさ上げした場所に今年3月、商店街が開業した。「またここに戻ってこられた」と佐藤さん。ボードが伝える町の物語が紡がれている。

(井上優子)

 きりこプロジェクト

 南三陸で神社の宮司が半紙を縁起物の形に切り、氏子に配る伝承切り紙「キリコ」。作物が乏しい時、供物の代わりに捧げたのが始まりと言われる。その様式をアートに変換し、毎夏、紙のきりこ作りを続けている。きりこ作りは、7月8、9、11日と8月にも、南三陸ポータルセンターで開催。同町に新設された二つの商店街に8月下旬から2週間飾る。問い合わせは南三陸町観光協会(0226・47・2550)。

 《作品へのアクセス》BRTバス志津川駅から車で3分。


ぶらり発見

キラキラうに丼

 3月に新規オープンした南三陸さんさん商店街(TEL0226・25・8903)では、28店舗が営業している。

 総菜を仮設住宅に移動販売していた食楽 しお彩も出店。「キラキラうに丼」(写真、2700円)がおすすめだ。菅原栄子さんは現在、土産物を扱うわたやを営業している。藻塩が利いた「三陸たこせんべい」(650円)が人気。

 佐藤信一さんが営む写真館さりょうスタジオの常設写真展は、津波以前と以後の町の様子を伝える。入場料300円。午前10時~午後5時。(火)休み。

(2017年6月6日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)