山々が迫り、川音響く徳島県神山町の休耕地。若いカップルが奇妙な鳥居の前で写真を撮り合う。BGMは、鳥居から流れるソウルフルなバラード――。
高さ約4メートルのこの鳥居、実は約300のスピーカーからなるアート作品だ。無線通信のブルートゥースを搭載し、スマートフォンなどから音楽が流せる。マイク端子も備え、その名の通りカラオケできる鳥居である。
作者はドイツ在住の米国人彫刻家、ベノア・マーブリーさん(64)。町に滞在して作品を制作する「神山アーティスト・イン・レジデンス」のプログラムを利用し、今年1月に完成させた。朝10時から夕方4時までのみ電源が入る設定で、約4分の1のスピーカーからだけ音を出すなど騒音にも配慮。日本文化を象徴する形を採用し、人々が出会い、音楽や思考を共有する場を目指した。「沈黙したアートじゃなく、人や場をつなぐ生きた彫刻なんだ」とベノアさん。
Iターンが進み、農家とIT企業のオフィスが共存する同町。作品の電気系統をサポートしたのは、東京から移住して近くのシェアオフィスに勤めるプログラマー、山下実則さん(23)だ。「音楽が聞こえてきたら、うれしくなる」と笑う。週末にはロックや演歌など様々な曲が流れ、中には1時間近く踊る人もいたそうだ。この夏、鳥居で音楽を楽しんでみませんか?
(安達麻里子)
神山アーティスト・イン・レジデンス 1999年に始まり、現在NPO法人グリーンバレーが運営するアートプロジェクト。移住者や先端企業のサテライトオフィスが集まる、現在の町の姿に至る大きな流れを作った。毎年国内外から3~5人のアーティストを招聘(しょうへい)。約2カ月の滞在中に作品を制作してもらう。現在約40作品が鑑賞可能(一部要予約)。10月29日(日)~11月5日(日)、今年度の招聘作家の展覧会を開催。 《作品へのアクセス》徳島駅からバスで約1時間、「神山高校前」下車徒歩10分。 |
「寄井中」バス停から徒歩3分のかま屋(TEL050・2024・2211)は「地産地食」を掲げ、神山産の食材を可能な限り使用している食堂。オープンキッチンの開放的な空間で定食などが味わえる。(月)(火)休み。
「神山温泉前」バス停から徒歩1分のSHIZQ(しずく、TEL088・636・7292)は、町内の間伐杉材から手作業でコップや椀(わん)を制作、販売している。木目を生かしたデザインと軽さが特徴。写真右から鶴タンブラー(1万3400円)、鶴コップ(1万1400円)。(月)休み。