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大きなイス 
そのだ正治(まさじ)作(福岡県飯塚市)

商店街の思い乗せるイス

2階建ての建物の外壁に接している=桐本マチコ撮影
2階建ての建物の外壁に接している=桐本マチコ撮影
2階建ての建物の外壁に接している=桐本マチコ撮影 初めてイスに上ったという近所の女性。記念撮影用の「足」とパシャリ=桐本マチコ撮影

 江戸時代に長崎街道の宿場町として、明治~昭和前半は筑豊炭田の炭鉱町として栄えた福岡県飯塚市。その中心部に本町商店街はある。アーケードが架かるメインストリートから脇道に入ると、高さ5・8メートルの鉄製のイスがそびえる、童話の一場面のような光景に出会った。

 2003年に完成した、その名も「大きなイス」。空き店舗が目立ち始めた商店街を盛り上げようと、地元で建設業を営む久保井伸治さん(66)が発起人となって市民から寄付を募り、集まった約150万円を費用に充てた。制作者そのだ正治さん(58)も飯塚出身で、「筑豊には歴史と文化、おいしい食べ物がある。さらに現代アートで楽しくしていけたらと思って」。万人になじみがあるとモチーフに選んだのがイス。「自然の流れ」を意識した緩やかな線で構成しつつ、背景にビル群をあしらい、「街のにぎわい」を表現した。

 「面白いイスがある、と訪ねてくる人が増えました」。場所を提供した島田不動産の事務所に勤める斎藤寛一郎さん(84)は話す。招かれて事務所横の階段を上ると、イスの座面に通じる扉が。ジーパンと靴を履いた手作りの「足」が用意され、一緒に写真に納まればイスに座っているように見える。12月にはサンタの人形とツリーを飾るそうだ。イスとそれを支える温かい心は、さびることなく町に息づいている。

(中村和歌菜)

 本町商店街

 旧長崎街道の街道筋にある商店街。1976年、イタリア・ミラノの街を模してドーム形のアーケードを採用した。「はたや楽器店」入り口上部にからくり時計があり、午前10時~午後6時の毎時0分に宿場町を再現したジオラマが出現。大名行列や、江戸の将軍へ献上されたゾウやラクダなどの人形が音楽に合わせて動く。8月を除く偶数月の15日は、各店舗が商品を100円で売り出す「百縁市」でにぎわう。

 《アクセス》新飯塚駅から徒歩約15分。


ぶらり発見

「嘉穂劇場」

 本町商店街にあるわた惣本店(TEL0948・22・1457)は全国各地の総菜や菓子などをそろえる。「博多辛子たかな」(378円)や、唐辛子やゴマに漬け込んだ珍味「いかのぶっかけ」(864円~)などが人気。午前10時~午後6時。(水)休み。

 商店街から徒歩約5分の嘉穂劇場写真、TEL22・0266)は、かつて炭鉱労働者でにぎわった芝居小屋。現在も演芸などの興行があり、公演日と(水)以外は内部を見学できる(300円)。客席を照らす24基の照明は、そのだ正治さんが制作したオブジェで飾られている。

(2017年11月28日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)