冷たい風が吹き付ける葛生伝承館西側の外壁に、寒さを忘れてしまうほど鮮やかな色彩が広がっていた。
高さ約3メートル、幅約23メートルの壁に描かれたフレスコ画。テーマは佐野の四季だ。動植物のほか佐野ラーメンやいもフライ、石灰工場やクリケット場など、よく見ると、佐野の名物がちりばめられている。
「フレスコ」は、イタリア語で「新鮮な」という意味。塗り立ての漆喰(しっくい)の上に顔料で色づけし、鮮やかな色を定着させる技法だ。漆喰の材料は、石灰、砂、麻の繊維など。葛生は石灰岩の全国有数の産出地であることから、栃木県石灰工業協同組合がフレスコ画に着目。町のPRにもなると、制作を企画した。
西洋的なイメージが強いが、制作するのは日本画家の福島恒久さん(40)と、戸倉英雄さん(40)。東京芸大の同級生だった二人は、鳥獣戯画や洛中洛外図などを参考に、得意とする細密な描写を生かした。2006年の秋から描き始め、現在見られるのは3分の2ほど。完成目標は20年だという。
毎年春と秋に数カ月間集中して作業する二人。福島さんは、制作のため09年に京都から移住し、町の人に取材して長く親しまれる絵のモチーフを考えた。
「いろんな人に支えられて描いています。今後はお世話になった人も登場する予定です」
(秦れんな)
葛生地区 江戸時代から石灰採掘で栄え、1970年前後をピークに今も鉱業が基幹産業となっている。石灰は製鉄、セメント、肥料など多方面で使用される。「石灰の町」にちなみ、市内には市役所や佐野署葛生交番など十数カ所にフレスコ画作品を設置。 葛生石灰岩は約2億6千万年前の古生代ペルム紀の地層。石灰採掘の過程では大型哺乳類の化石が多数発見され、「化石の町」としても知られる。 《作品へのアクセス》葛生駅から徒歩8分。 |
フレスコ画のある佐野市葛生伝承館(TEL0283・84・3311)は、同市の文化・芸能などを資料約600点の中から紹介する。2月10日~4月8日、「雛人形展」を開催。
伝承館からすぐの葛生化石館(TEL86・3332)では「ミニ発掘体験キット」(300円)を販売。石灰などで固められたアンモナイト、サメの歯、腕足類いずれかの化石を、ドライバーや割り箸を使って「発掘」できる=写真。同館では、佐野周辺の地質や化石を紹介するほか、佐野ゆかりの動物の骨格なども展示する。