南岸低気圧の影響で肌を刺すような風が吹く。飯野海運の本社ビル「飯野ビルディング」1階ピロティの防風スクリーンは、ガラス面にぽっかりと白い雲を浮き立たせながら、強いビル風を和らげていた。
作者は、アルゼンチン出身のレアンドロ・エルリッヒ(1973~)。東京・六本木の森美術館で開かれている「レアンドロ・エルリッヒ展:見ることのリアル」(4月1日まで)で注目を集める現代作家だ。
本作は、旧飯野ビル建て替えに伴うアート計画の一つで、ビルの1期完成と同じ2011年に設置された。〝海運らしさ〟を打ち出した新ビルは、建物自体を船に見立てた設計。敷地北側の「イイノの森」から日比谷公園、皇居へとつながる緑を広大な海ととらえ、「樹海に漕(こ)ぎ出す船」が表現されている。本作が船の海面下にあたる1階に配置されることから、海の源である雨を降らせる「雲」がモチーフに選ばれた。10枚のガラスを重ねることで、描かれた雲は立体感を持ち、日中は自然光、夜は内装のLEDライトによって「大海原に浮かぶ自由な雲」を演出。外構設計に携わった和田浩二さん(42)は「歴史や人の心、様々なモノを『つなぐ』ビル。100年先も、絶やすことなく守り続けたい」と話す。
「新たな旅立ちへ」がテーマのアート計画。航海は始まったばかり。
(井本久美)
飯野ビルディング 海運と不動産の2事業を展開する飯野海運の本社ビル(27階)で、オフィスフロアとイイノホール、商業施設で構成される。建築計画の「つなぐ」をテーマに、2011年に1期、14年に2期工事が完了。旧ビルの石材やレリーフ、アートワークが随所で再利用されている。アート作品は8点(公開は5作品)。公開空地(くうち)を利用した「イイノの森」に在来種の樹木を植えるなど、生物多様性の保全にも取り組む。 《アクセス》東京メトロ霞ケ関駅C4出口直結 |
イイノの森から徒歩5分、日比谷公園内の緑と水の市民カレッジ(TEL03・5532・1306)では、一昨年の「林学博士 本多静六生誕150年展」を3月3日まで再展示。同園設計にも携わり、日本の造林、造園学の礎を築いた人物像に迫る。
公園のほぼ中央。1903(明治36)年の開園当初から営業を続ける松本楼(TEL3503・1451)は、3日間かけて仕込んだハイカラビーフカレーが人気だ。昔からのレシピで、具材は牛バラ肉とタマネギのみ。レトルト(写真、594円)はお土産に。3月4日に新装オープン。