鵜飼(うか)いで有名な、長良川近くのスポーツ施設・岐阜メモリアルセンター。芝生の広場に足を踏み入れると、幅22メートル、高さ9メートルの陶壁画いっぱいに広がる、桜の花が現れた。
白からピンクへ、濃淡のある花びらが立体的に重なり合う。太い幹はまるで生きているかのよう。刻まれたしわに、ひときわ目を奪われた。
1988年に開かれた「ぎふ中部未来博」の出展作。岐阜県ならではの作品をと、素材には多治見市近郊で作られる美濃焼を選んだ。絵のモチーフは、日本三大桜の一つでもある本巣市の根尾谷(ねおだに)淡墨桜。花びら7万5千枚の制作には、県内の小中学生たちも加わった。
作画と陶板の成形を手がけた画家の伊藤嘉晃さん(78)。戦時中、疎開先の地で見た樹齢1500年余りの淡墨桜に魅了され、この桜を画題に多くの作品を描いてきた。「花びらは投げつけるように貼り付け、木の幹のしわは、両手の指で引っかくようにして表現しました。後にも先にもない巨大な作品に、必死の思いでしたね」
焼成を担当した加藤直彦さん(65)も「窯に火を入れた後は、神様次第。火の神様に祈るのみだった」と振り返る。成形した陶板は千数百のパーツに分割し、順番に焼き上げた。
30年経った今も花の色はほぼ変わらない。硬く焼いた「陶の桜」なればこそだ。
(渡辺鮎美)
岐阜メモリアルセンター 「ぎふ中部未来博」の開催跡地に整備された、総合スポーツ施設。野球場やサッカー、陸上競技場、武道館やドームなどがある。未来博に向けて造られた長さ400メートルの大型デッキや、シンボルモニュメントの岡本太郎作品は、現在も敷地内に残る。4月には、ここをメイン会場に、岐阜市出身の五輪メダリスト・高橋尚子さんが大会長を務める「ぎふ清流ハーフマラソン」が開かれる。 《アクセス》岐阜駅からバスで約20分。 |
古い日本家屋の町並みが残る川原町地区は岐阜メモリアルセンターから徒歩25分前後。着物や浴衣姿でも乗れるキモノバイク=写真=で、温泉やカフェ、雑貨店巡りを楽しめる。30分500円から(別途料金で着物レンタルも)。要予約。不定休。問い合わせはORGANキモノ(058・269・3858)。
織田信長が拠点としたことで知られる金華山に登ったら、ぎふ金華山リス村(TEL262・6784)へ。リスに触れたり、直接えさをやったりすることができ、外国人観光客にも人気だ。200円。