冬の日本海。海岸線を歩いていくと、石積みの突堤の先に強い海風と打ち寄せる波しぶきを受けながら海に向かって立つ、白い3体の彫刻が見えてきた。
彫刻家、流(ながれ)政之(1923~)が89年に制作した石彫作品だ。80年代後半、当時の鳥取県赤碕町(現琴浦町)商工会がモニュメントを計画。同地出身の親族をもつ日動画廊社長が建設資金を寄付して、国際的に活躍する流に依頼した。
設置場所を探し求めて町中を巡り歩いた流の目に留まったのが、菊港だった。江戸時代には、北前船が寄港し、藩米の積み出し港として栄えた。しかし明治以降は水深が浅くなり、港としての機能が低下、忘れられた存在になっていた。流は「こんな港が残っていたのか」と驚き、ここに設置を決意。かつての港の歴史を掘り起こそうと、白御影石で海を渡った旅人たちを表現した。
流は「人生には三度チャンスがあり、それをつかめば喜びがある。荒波に打たれ、吹雪の中に立つ彫刻からそれを感じてほしい」と話している。
当時、赤碕町観光協会副会長を務めていた祇園(ぎおん)和康さん(86)は、「この作品のおかげで菊港の歴史や意義に関心を向けてもらえる、赤碕の宝です」と誇らしげに言った。作品は95年に県の景観大賞を受賞。今は地域を代表する名所のひとつだ。
(石井久美子)
菊港 鳥取県中部の琴浦町に位置する赤碕港内の三つの港のうちの一つ。寛政年間(1789~1801)に築かれ、左右に二つの防波堤を備える。江戸時代は北前船が寄港し、藩米の積み出し港となり、船番所や藩倉、商店や旅館が立ち並ぶ町の中心地として栄えた。「波しぐれ三度笠」の設置にあわせて、作品までの歩道を舗装、橋を架けた。その後、海岸沿いに公園も造成された。 《アクセス》赤碕駅から徒歩約20分。 |
菊港のすぐ前には塩谷定好写真記念館(TEL0858・55・0120)がある。塩谷は大正~昭和に活動した芸術写真家。1906年に建てられた回船問屋の生家を改装して2013年に開館。ギャラリーと各部屋で、塩谷の作品や愛用品、回船問屋時代の調度品などを見ることができる。300円。(火)休み。
「三度笠」から徒歩約20分の魚料理海(TEL55・0889)は鮮魚も販売する食堂。地元で捕れた甘みのあるモサエビがたっぷりのった「モサエビ丼」が味わえる(写真、1550円、みそ汁とお新香付き)。