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湯玉の気配:空気の人 
鈴木康広作(松山市道後鷺谷町)

空中の「湯治客」ゆらゆら

椿館ロビーのモニターには、「空気の人」を街中に連れ歩き、「空気を採取」していく映像作品も=楠本涼撮影
椿館ロビーのモニターには、「空気の人」を街中に連れ歩き、「空気を採取」していく映像作品も=楠本涼撮影
椿館ロビーのモニターには、「空気の人」を街中に連れ歩き、「空気を採取」していく映像作品も=楠本涼撮影 道後温泉本館の屋根瓦に施された「湯玉」の意匠=松山市提供

 日本三古湯の一つといわれる道後温泉。なだらかな坂道を歩くと、レトロな造りの「ホテル椿(つばき)館」が立つ。その吹き抜けロビーに不思議な景色が現れた。

 次々と訪れる宿泊客が見上げた先にぷかりと浮かぶのは、全長約1~3メートル、大小4体のビニール製の人形だ。同温泉周辺を舞台にした芸術イベント「道後オンセナート」の作品の一つ。

 街の象徴、道後温泉本館改築120周年を記念し、2014年に初開催され、今年は4年ぶりだ。「数カ所に設置した機械から常時、チューブで作品に空気を送っています」と同ホテル社長の三好卓次さん(51)。

 制作した美術家の鈴木康広さん(39)は、07年から本作をアイスランドやロンドン、東京・羽田空港などで展示してきたが、この地には特別な思い入れがある。「道後温泉のシンボル、湯が湧き出る様を表現した湯玉の意匠に惹(ひ)かれました。波紋と滴が一体化した形に、温泉地に宿る不思議な力を感じた」。空気中には水分が存在する。「空気の人」も「目に見えない湯玉の気配が漂う温泉」につかっている。そんな鈴木さんの思いが、今年のイベントのテーマ「アートにのぼせろ」と共鳴した。

 「4体あるから家族かな?」と話しながら宿泊客が街へ繰り出していく。ホテルの玄関から外気が吹き込むと、空中の「湯治客」もゆらゆらと揺れた。

(石井広子)

 道後オンセナート

 2019年2月28日まで、約30軒の旅館やホテルが立ち並ぶ道後温泉の街中で開催。鈴木康広のほか、三沢厚彦ら25人の作品約30点を展示し、道後の歴史や文化に触れることができる。椿館近くの旅館「道後館」では、ブックデザイナーの祖父江慎が演出した客室も。壁面、天井などを、道後温泉が登場する夏目漱石の小説「坊っちゃん」の文字で埋め尽くした。見学料1500円(喫茶券付き)。宿泊も可能。

 《アクセス》ホテル椿館へは伊予鉄道後温泉駅から徒歩8分。


ぶらり発見

道後ビール(ケルシュ)

 道後温泉駅から徒歩4分の道後温泉本館(TEL089・921・5141)は国重要文化財で、現在、年間約80万人が訪れる大衆浴場。アルカリ性単純泉の「霊(たま)の湯」「神の湯」と、皇室専用の浴室「又(ゆう)新殿」(見学料260円)などがある。仏のガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で三つ星を獲得。午前6時~午後10時(一部11時まで)、410~1550円。

 湯上がりには、同館から徒歩3分のスタンディングバー「道後麦酒館 別館」(TEL931・6616)で「道後ビール(ケルシュ)」(写真、500円)が味わえる。

(2018年8月7日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)