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佐渡の版画 
大川版画グループのみなさん作(新潟県佐渡市)

思い出の風景に囲まれて

左の作品は、石原里子作「しめなわを作る婦人」(1992年)=横関一浩撮影
左の作品は、石原里子作「しめなわを作る婦人」(1992年)=横関一浩撮影
左の作品は、石原里子作「しめなわを作る婦人」(1992年)=横関一浩撮影 作品は特殊なフィルムにプリントし、アルミパネルに加工。水や熱に強く、劣化も目立たない=横関一浩撮影

 両津港でフェリーを降り、海沿いを車で15分ほど走ると、木造の古い家や白い漆喰(しっくい)の蔵の外壁に何か飾られているのが見える。たくさんの版画だ。

 佐渡島の両津大川は、集落全体が「大川屋外版画美術館」になっている。2008年5月、佐渡市の町おこし事業の一環として始まった。正月の「押し念仏」、春の「だんごまき」、「文弥人形芝居」や「炭焼き」など、描かれているのは同地区に続く伝統行事や風景。大小合わせて100点ほど展示する。

 佐渡では、1976年ごろから、両津高校の美術講師だった高橋信一さん(1917~86)による「版画村運動」が広がった。十数カ所の集落に「版画グループ」ができ、最盛期、版画人口は300人近くになった。

 両津大川では、小学生から70代までの版画作品で、カレンダー「大川暦」を発行。80年から10年ほど作り続けた。秋になると作業小屋に集まり、夜な夜な版画を刷った。今、展示しているのはその中の作品だ。当時のリーダー田中政一さん(66)は、「版画は土地の文化を保存する方法の一つ。村の財産になる」と話す。民宿津島荘を営む石原里子さん(67)は、「村を出た人も帰ってきたときに、こんなばあちゃんいたな、こんな風景あったな、とほっとしてくれたら」。今年、休止していたカレンダー作りを再開予定だ。

(秦れんな)

 両津大川

 佐渡の東端に位置し、2軒の民宿、漁師、農家など約50戸からなる集落。村には地名の由来となった「大川」が流れる。江戸時代から北前船の寄港地として栄え、廻船問屋が軒を連ねた。航海安全・商売繁盛の神がまつられる津神神社は、朱塗りの橋が目を引く大川の景観名所。村から北側に下ると、現存する日本最古の鉄造りの灯台・姫崎灯台がある。佐渡海峡を航行する船舶の道標だ。

 《アクセス》両津港から車で15分。


ぶらり発見

オケサドコーヒー

 両津港ターミナルに到着したら1階のmaSanicoffee(マサニコーヒー、TEL070・4222・6448)でひと息。市内の山奥で焙煎(ばいせん)する「オケサドコーヒー」(写真、300円、コーヒー豆は100グラム750円~)のほか、佐渡産のリンゴジュースや番茶なども販売する。朝4時半から営業。

 両津港から車で約50分の佐渡版画村美術館(TEL0259・74・3931)は、高橋信一さんが創設。高橋さんの作品や版画村会員の作品約300点を常設するほか、企画展も。入館料400円。(月)休み。

(2018年9月4日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)