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熊襲(くまそ)の穴 
萩原貞行作(鹿児島県霧島市)

文様で彩る、伝説の洞窟

洞窟は200平方メートルほどの広さ。内部にライトが設置されており、入り口のスイッチで点灯できる=安達麻里子撮影
洞窟は200平方メートルほどの広さ。内部にライトが設置されており、入り口のスイッチで点灯できる=安達麻里子撮影
洞窟は200平方メートルほどの広さ。内部にライトが設置されており、入り口のスイッチで点灯できる=安達麻里子撮影 山のふもとに立つ、竹道久の彫刻「神々の想い」=安達麻里子撮影

 山道の急な階段を5分ほど上ると、ぽっかりと口を開けた洞窟が姿を現す。足を踏み入れると、様々な文様が描かれた極彩色の世界が広がっていた。

 鹿児島県霧島市の妙見(みょうけん)温泉。中心地の山の中腹にあるこの洞窟は、4世紀ごろ、九州中南部に住んでいた熊襲族の長が、ヤマトタケルに討伐されたという伝説が残る場所だ。1990年、その洞窟の壁に、美術作家の萩原貞行さん(65)が色とりどりの絵を描いた。

 現在の所有主、旅館妙見石原荘の当時の社長が萩原さんの作品を気に入り、温泉街の活性化のために制作を依頼。地元では反対意見もあったが、萩原さん自ら話し合いを重ね、思いを伝えた。「落書きが彫られていた洞窟を、神聖な儀式の場にしたかった」。太陽や月、星、波など自然の要素を幾何学的な文様に置き換え、ペンキで描いていった。3週間毎日通って仕上げた絵が雑誌に取り上げられると、大勢の観光客が訪れるようになり、今では観光名所の一つに。

 太陽光や風雨にさらされないため、約30年経った今も制作当時の鮮明な色を保つ。初めて訪れたという市内在住の赤塚稔さん(54)は「幾世代先にも残るのでは」と驚いていた。

 天井から滴る水音を聞きながら、ここで暮らしていたかもしれない熊襲の人々、この絵を見るであろう未来の人々に思いをはせた。

(安達麻里子)

 妙見温泉

 霧島市牧園町と隼人町にまたがる温泉地。開湯は1895年とされ、天降(あもり)川の河畔に10軒の温泉旅館が軒を連ねる。炭酸水素塩泉で飲める温泉としても知られ、元々は湯治場として重宝されていた。新川渓谷一帯に点在する温泉群の一つで、バスで約10分の距離には、幕末の志士・坂本龍馬と妻のお龍(りょう)が、湯治を兼ねた新婚旅行で18日間ほど滞在した塩浸(しおひたし)温泉もある(現在は立ち寄り湯のみ)。

 《アクセス》 嘉例川(かれいがわ)駅からバスで15分ほど。


ぶらり発見

駅弁「百年の旅物語 かれい川」

 日本神話の天孫降臨の神ニニギノミコトをまつる霧島神宮(TEL0995・57・0001)は、本作から車で約30分。参道や周辺には、常に風が吹き出ていたという岩穴「風穴」など「霧島七不思議伝説」が残る。

 本作の最寄り駅、1903年開業のJR肥薩線嘉例川駅は、県内最古の木造駅舎。駅舎内で販売する駅弁「百年の旅物語 かれい川」(写真、(土)(日)(祝)の午前10時半~、1080円)が人気だ。県産サツマイモの天ぷら「ガネ」が自慢の一品。予約不可。問い合わせは森の弁当やまだ屋(090・2085・0020)。

(2019年2月26日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)