札幌から特急列車で北へ3時間。山林に囲まれ澄んだ空気が広がる音威子府村は、人口約740人の「北海道で1番小さい村」。アイヌ民族をルーツに持つ旭川市出身の彫刻家、砂澤ビッキ(1931~89)が晩年の10年を過ごした地だ。音威子府駅からほど近い村庁舎で、いくつものビッキ作品が「村の顔」として迎えてくれた。
2階へ上がる階段の壁に掛かるのは、村でなじみのアゲハ蝶と、村を貫流する天塩川を遡上する鮭がモチーフの作品。クルミやセンの木を用い、アイヌ文様を独自に展開した「ビッキ文様」を刻む。鮭の尾や胸びれ、蝶の羽は可動式で、五感の触覚を重視したビッキの遊び心が表れる。札幌からの移住翌年の79年、新庁舎に飾る作品を村から依頼されたものだ。「この村から文化を発信したいって話していた」。かつて材木会社を営み、ビッキに木材を提供するなど親しい間柄だった河上實さん(81)は懐かしむ。「優しくて不器用で純粋な人だった。村の誇りだよ」
ビッキの移住は、村立の音威子府高校(現・おといねっぷ美術工芸高)の校長の誘いで実現した。その後、廃校寸前だった高校は工芸科を設立。村は「木工芸の村」へと舵を切った。今や全国から約120人の高校生が集まるほか、村には本格的な木工機材が並ぶ施設も立つ。ビッキの魂が根付き、人々が木工に親しむ風土があった。
(安達麻里子)
音威子府村 村名は「濁った川」の意のアイヌ語「オ・トィネ・プ」に由来。村域の約80%を道有林や北海道大演習林などの森林が占め、「森と匠の村」を掲げる。 《アクセス》 音威子府駅から徒歩10分。 |
音威子府駅の隣駅・筬島駅から徒歩1分のエコミュージアムおさしまセンター(問い合わせは01656・5・3980)は、砂澤ビッキがアトリエに使った旧小学校舎で、ビッキ作品約200点を展示。ビッキデザインの復刻手ぬぐい「3モアてぬぐい」(写真、800円)なども販売。入館料200円。(月)((祝)の場合は翌日)休み。
同村は、江戸末期の探検家・松浦武四郎が「北海道」の名を提案したとされる地。筬島駅から徒歩25分の場所に「北海道命名の地」の碑が立つ。