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Hundred Life Houses
宮島達男作(大分県国東市)

元気をくれた現代の「磨崖仏」

Hundred Life Houses  宮島達男作(大分県国東市)

 足元の山道から目を上げると、木立の奥の暗がりに点滅する無数の赤や青色の光が飛び込んできた。思わず、息をのむ。古来、断崖に彫られた磨崖仏が集中する大分県・国東半島。その中心部、国東市・成仏地区にある本作は、LEDのデジタルカウンターを使った制作で知られる美術家、宮島達男さん(62)の作品だ。2014年、国東半島芸術祭に参加した際、磨崖仏に着想を得て制作した。

 道路から徒歩数分の鬱蒼とした林の中。幅30メートル、高さ16メートルの岩場に、百個のカウンターが配されている。それぞれ、コンクリート製の「ハウス」で囲われ、まちまちの速さで数字が刻まれる。「数字が変わる様は人生、0を示す暗闇は死。再び始まる数字のカウントは、繰り返される生と死のリズムです」と宮島さんは語る。

 カウンターの速度設定やハウス作りの作業は、住民らと行った。「一緒に作れば身内のように受け入れてもらえると思って」と宮島さん。同地区は全37戸の山あいの集落だが、芸術祭を機にハイカーなど訪れる人が増えてきた。地元有志でつくる桜会は、来訪者をもてなすためにピザ窯を作った。作品前でのイベントも企画する。

 「人が集まって楽しむ場があれば元気が出る。集まるっちゅうことだけでいいんじゃ」と会長の麻生拓之さん(70)は目を細める。現代の「磨崖仏」には、不思議な力があるようだ。

(山田愛)

 国東半島芸術祭

  2014年に開催された野外アートの祭典。本作のほか、国東市の千燈地区、岐部地区、豊後高田市の香々地地区などに、オノ・ヨーコらの作品がある。


ぶらり発見

 国東半島にある六郷満山寺院の一つ、国東市の文殊仙寺(問い合わせは0978・74・0820)は、作品から車で12分。「三人寄れば文殊の知恵」のことわざの発祥地と言われている。

成仏ピザ 成仏ピザは、作品から歩いてすぐの公民館にある薪窯で焼き上げる=写真。2月に行われる地域の火祭り、修正鬼会の時に食べる「胡椒もち」に塗る唐辛子入りの甘みそや、あんこを使ったピザも。10人からの事前予約制。問い合わせは麻生さん(090・4981・5163)。

(2019年7月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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