19歳の大学生の頃かな。展覧会の機材を運び込むアルバイトをしていて、人形町はその集合場所だった。ある日の解散後、行列ができているたい焼き屋を見つけたんです。
型を使って一個一個リズムをつけて焼くおやじさんの姿がまるで踊っているように見えました。手渡しされるアルバイトの日当の中から小銭を使って数匹買ったり、「釣ってきてやったぞー」と言って、近所に住む友人のおみやげにしたり、青春でしたね。ウェブ連載中の小説にこのエピソードを出しました。
全体が薄くて、皮がぱりっとしているんです。あんこが尻尾まで入っていて、本当においしい。後で誰かから聞いたな。一気にたくさん焼くのは「養殖物」、柳屋さんのように一つずつ焼くのは「天然物」だって。そんな風に実際の魚のように例えられるメタファーがあるのも、他の食べ物にはない魅力ですよね。
◆東京都中央区日本橋人形町2の11の3(TEL03・3666・9901)。
1個140円。
午後0時半~6時。(日)(祝)休み。
箱詰めは6個から(別途箱代)。
なかむら・こう 作家。
著書に『星に願いを、月に祈りを』や、『100回泣くこと』(ともに小学館文庫)など。