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石井光太さん
「隆泰商行」の山査子餅(さんざしもち)

「隆泰商行」の山査子餅(さんざしもち)
「隆泰商行」の山査子餅(さんざしもち)
「隆泰商行」の山査子餅(さんざしもち)  石井光太さん

 五つか六つの時でしょうか。ばあちゃんが横浜の中華街に行って、お土産として買ってきたんです。外国のお菓子って悪夢みたいに甘ったるいってイメージしかなかったのに、これはさっぱりとしてフルーツみたい。味が上品で、香りもいい。うまいぞって感動して、以来、誰かが中華街に行く度に、必ず買って来てもらっていました。

 大人になって、取材で外国に行くようになると、アフリカでも中東でもアジアでも、必ず中華街がある。そして、どの国の中華街でも、不思議とこれがあるんです。しんどい取材で心がすさみ、甘い物がほしくなると、ついつい買ってしまうようになりました。

 取材先のホテルで、作品の構成を練る時にもよく食べます。構成を考えるには、客観性が不可欠。山査子餅の包装紙をペリッとはがし、薄い、一円玉みたいな1枚を口の中に入れて、パキッと舌で割る。1枚、さらにもう1枚……。そうこうして、だんだん物語の世界に入っていくのです。普段と違う自分になるための、儀式のような役割を果たしているのかもしれません。

 

◆横浜市中区山下町131(TEL045・651・5149)。
 194円。
 午前10時~午後8時45分。
 無休。
 インターネットでも購入可(送料別)。


 いしい・こうた ノンフィクション作家。
 国内外を取材し、貧困や紛争、災害、差別など幅広いテーマで執筆。近著「世界の産声に耳を澄ます」(朝日新聞出版)が発売中。

(2017年6月23日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)