生家の近所に70年くらい前からある和菓子店でね。今は3代目だと思うけど初代から知ってるの。
戦争が終わったとき僕は8歳で、疎開先から東京の自由が丘に戻ってきたら焼け野原でね。お店がある辺りには闇市が立ってたの。人がいっぱいいて活気があってね。その闇市を歩くのが面白くて、毎日一人で行ってたんだ。今はすっかり様変わりしておしゃれなお店も増えたけど、大文字さんは戦後しばらくして商店街ができてからずっとあるんだよね。
昔から家族で何かお菓子を食べるっていうと、ここの和菓子だったね。その中でも僕は「利久」っていうまんじゅうが一番好きでね。飾りっ気のない素朴な見た目に、ほどよい甘さのこしあん。何でだかわかんないけど、あの味が好きなんだ。1964年からフィンランドのヘルシンキに住んでいて、毎年日本の家と行き来しているけど、帰国したら買いに行って食べてるね。
昔ながらの味を守り続ける姿勢というか生き方もね、好きです。毎日毎日手をかけて心を込めて一つのものを作り上げていく。和菓子職人も音楽家もおんなじだと思いますね。僕も演奏して世界を作っていくのが生きがい。90歳までは続けたいなあ。
◆東京都目黒区自由が丘1の27の2の自由が丘ひかり街内(問い合わせは03・3717・7701)。
120円。
午前10時~午後7時半。
(水)休み、不定休あり。
たての・いずみ ピアニスト。
1936年生まれ。左手のみの演奏で知られる。10日に東京・西新宿の東京オペラシティコンサートホールで、演奏生活60周年を記念したリサイタルを開催。