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橋本平八「弱法師(よろぼし)」

真夏の夢、夜の寝覚め(三重県立美術館)

 


美博ノート
1934年

 

 想像力を育む「夜」に焦点を当てた本展。夜が題材の作品だけでなく、作品の背景の物語に白昼夢のような幻が登場するものもある。その一つが、高さ約40センチのこの木彫だ。

 俊徳丸伝説を元にした謡曲「弱法師」の一場面。左手を前にのばし、右手に杖を持つ俊徳丸。頭には能装束のかつらの一種、黒頭(くろがしら)をまとい、目は静かに閉じられている。幽玄な姿は周囲に緊張感を生んでいる。

 父親に勘当されて盲目となった俊徳丸は、放浪の末に父親と再会する。沈んでいく太陽の形を心にとどめておく「日想観(じっそうかん)」という仏教の修行を積み、生まれ故郷の風景までも見えてくる俊徳丸。見えないものを見たいという強い欲求は、深い信仰心とも切り離せないものらしい。俊徳丸のみを像にすることで、見る者に周りの風景や能の所作を心の目で見るよう促しているようだ。

(2015年6月17日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)