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琅玕釉(ろうかんゆう)蟹付花瓶

世界に挑んだ明治の美展(ヤマザキマザック美術館)

 


美博ノート
明治~大正 山本博士蔵

 

 花瓶のふちに爪をかける1匹のカニ。周りに装飾がない分、カニのリアルさが一層きわだつ。陶工、初代・宮川香山(こうざん)が最晩年に手がけた作品だ。

 香山は40代になってから、絵付けをした上に透明な釉薬(ゆうやく)をかけて焼き上げる「釉下彩(ゆうかさい)」の研究に没頭した。外国人の顧客が、過剰な装飾を施した作品より日本本来の控えめな美しさを求めはじめたのに気付いたからだ。

 釉下彩は年月が経っても色あせないのが特徴。花瓶に乗せられたカニも釉下彩で、当時の繊細な色合いを保ち続けている。

 香山が1916年に死去してのち2代、3代と引き継がれたが45年5月の横浜大空襲により3代目が死去し、工房も壊滅的な被害を受ける。そのため、培われた技法は実質的に途絶えるかたちとなった。

(2015年7月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)