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鈴木春信「やつし芦葉達磨(ろようだるま)」

春信一番!写楽二番!(静岡市美術館)

 


美博ノート
明和2~4年(1765~67)頃 中判錦絵 フィラデルフィア美術館
Philadelphia Museum of Art: Gift of Mrs. Emile Geyelin in memory of Anne Hampton Barnes,1960

 

 江戸時代の中ごろ、趣味人の間での意匠を凝らした絵暦の交換会をきっかけに、多色刷木版画(錦絵)が誕生する。鈴木春信はその立役者の一人。本作の美人が芦(あし)に乗って川を渡る様子は、長江を渡るだるまの伝承を描く禅画を踏まえる。だるまを美女に置き換えた、やつし絵だ。春信はこうした機知に富む絵を得意とした。

 角度を変えて見ると「空刷り」の技法がよくわかる。絵の具を付けずに凹凸で質感を出すエンボス加工だ。着物には濃淡の紅を用い、空刷りで模様を細やかに表現し、3版以上を使った。水面も全体に薄い藍、波は墨線、空刷りを施している。版を重ねる多色刷りに耐えるため、春信の作品には丈夫で分厚い「奉書紙」が用いられた。本展では、春信の作品30点が一堂に会する。

(2015年9月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)