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©Sophie Calle/ADAGP,Paris,2015 |
カルは新聞記事で、海に囲まれたイスタンブールに暮らしていながら、海を見たことがない人々がいることを知る。彼らが住む内陸の貧民地域から10キロも離れていない浜辺へ、14人の老若男女を案内し、彼らが生まれて初めて海を見る様子を映像におさめた。
目を覆っていた手をはずし、海を見つめるそれぞれの後ろ姿が一斉に写し出される。振り返って、はにかんだ笑顔を見せる若い女性や、うるんだ目でじっとこちらを見つめる松葉杖の男性がいる一方で、この背広姿の男性は一向に振り返らない。海に向かって立ち尽くし、何度も左右を見回したのち、背を向けたまま右手で頰を拭う。
これまで映像や写真の中では見たことがあったとしても、目の前に広がる海の姿は彼らの予想をはるかに超えていたことが伝わってくる。本物を見ることの意義をカルは問いかけるのだ。