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「吊った干しえび」

宮脇綾子の世界展(名都美術館)

 


美博ノート
1983年、豊田市美術館蔵

 

 古い布切れで、身の回りのものを詩情豊かに表現したアプリケ作家・宮脇綾子(1905~95年)。本展は約200点を集め、創作の軌跡をたどる。

 本作は、正月の雑煮用に、熊本の親類から送られた干しエビを題材にした。鮮やかな布は「五月のぼり」だという。エビの目や、束ねるわらの風合いは本物そっくり。モチーフをよく見つめ、布が持つ色合いや柄、質感をうまく生かした。豊かな表現は「たくさんの素材に囲まれ、それらを熟知していたことで生み出された」と学芸員の鬼頭美奈子さん。布一枚一枚に、織り、染めた人々を思い、芸術品として大切に扱ったという。

 落款のような「あ」の文字は、綾子の「あ」、アプリケの「あ」、驚きの「あ」、ありがとうの「あ」を表している。

(2016年1月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)