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1962年 墨・和紙 |
にじみ、かすれ、重なり合う濃淡――。墨の線の美しさを追い求め続ける水墨の抽象画家、篠田桃紅。来月、103歳を迎える。
書家として成功を収めていた30代、桃紅は文字の決まり事に窮屈さを感じていた。「流れる川は三本の線では表現できない」と、その思いを随所で語っている。戦後、革新的な芸術活動が広がる中、桃紅も新たな表現を求めて抽象画への道を歩んでいく。本展では、その過渡期の作品と、抽象画を制作する一方で続いていた書家の仕事を紹介する。
本作も、そんな抽象表現の萌芽(ほうが)がみられる作品。「幽微」という文字を題材にしているが、読めるようには描いていない。「文字の意味からではなく、描かれた線から、見る人の想像力で自由に感じてほしいという思いがあります」と、学芸員の宮崎香里さんは話す。