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紙本着色 |
濃藍色の空――白雪が覆う山容には、金雲もたちこめる。本作は、自然風景の豊かな表情を端正に描く日本画家、中路融人(なかじゆうじん)の作品だ。
ほぼ3色で表現された富士の山だが、崇高さをまとい、神秘的な雰囲気が漂う。山頂には雪煙が描かれ、過酷な山の環境もうかがえる。
「山頂の雪煙は、仙人か龍の仕業かもしれません」と話すのは、学芸員の早川祥子さん。神聖な富士の頂には、仙人が遊びに来たといい、龍が棲(す)みついているとも伝えられた。徳川家康に仕えた江戸時代初期の文人、石川丈山(じょうざん)が詠んだ詩「富士山」に、そのことを表した一節がある。
また、丈山は冠雪の山容を「白扇倒(はくせんさかしま)に懸かる」とうたい、白絹を張った扇面を逆さまにつるしたようだとも書いている。本作は、まさしくその姿を捉えているかのようだ。