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「雪残る」

名山巡礼(古川美術館)

1985年 紙本着色
1985年 紙本着色

 新潟県南西部に位置する妙高山。秀麗な姿は、越後富士とたたえられ、日本百名山の一つに数えられる。かつては「越の中山」とも呼ばれ、渡り鳥が道標(みちしるべ)にしたという和歌も詠まれた。

 そんな妙高山の、新緑の色増す季節を捉えた本作は、三重県出身の日本画家、嶋谷自然(しまやしぜん)(1904~93)が描いた。対象を単純化し、色面で画面を構成する嶋谷。麓(ふもと)の木々や整地された田んぼは、あたたかみのある色彩の面で表したのに対し、山頂から山腹には陰影をつけ、陽光に輝く残雪の存在を表現した。山頂付近と平地との温度差を感じさせる工夫だ。

 2月下旬は暦の上では「雨水(うすい)」。雪は雨に変わり、氷は解けて水になる時期だ。草木が芽吹き、農作業の準備を始める目安とも言われる。本作を眺めていると、春の訪れが待ち遠しい。

(2017年2月21日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)