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「金谷 大井川遠岸」

歌川広重 東海道五拾三次展(名古屋ボストン美術館)

「金谷 大井川遠岸」
天保4年(1833)年ごろ 横大判錦絵

 江戸時代に開かれた五街道の中で、もっとも人の行き来が多かった東海道。その道中、最大の難所といえば、「箱根八里は馬でも越すが、越すに越されぬ大井川」と馬子唄(うた)にうたわれた大井川だ。

 交通の要衝だった東海道は、江戸防衛の目的もあり、主要な川には橋がなかった。駿河(するが)と遠江(とおとうみ)の国境にある大井川は、幅1キロメートル以上。「暴れ川」と呼ばれる急な流れで舟もなく、「川を渡るのは命がけだったようです」と、学芸員の鏡味(かがみ)千佳さん。大雨で水かさが増えれば、渡河禁止となり、宿泊費もかさんだ。

 本作は大井川を渡る参勤交代の一行を描いた情景。最後尾には、大名の駕籠(かご)を乗せた輦台(れんだい)を担ぐ人足が急流を進んでいる。対岸の山裾には駿河の金谷宿。一息つけるのはまだ先だ。

(2017年4月18日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)