日本では平安時代から愛玩動物としてかわいがられていた猫。本展では、江戸から明治にかけて活躍した浮世絵師が、猫を題材にした浮世絵100点を紹介する。
本作は、歌川広重(1797~1858)の晩年の大作「名所江戸百景」の一枚。猫の視線の先には浅草の田んぼが広がり、熊手を手にした酉の市の参拝客の行列がシルエットのように描かれている。市が開かれる鷲(おおとり)神社の近くに吉原遊郭があったことから、ここは遊女の部屋と思われる。左隅には客からの土産物だろうか、熊手の飾りが付いたかんざしが転がっている。
「当時の暮らしに猫が自然になじんでいます」と、豊橋市二川宿本陣資料館学芸員の和田実さん。格子窓から外を眺める猫の後ろ姿は、どこか哀愁漂う。