漆黒とは、艶(つや)めく黒色のことをいう。漆塗りの本作「真塗丸盆」は、まさに漆黒の奥深さが味わえる一品。「塗り立て」という技法が用いられている。
漆は、精製した樹液をかき混ぜ、加熱して水分を除く過程で黒くなる。水分が残っているうちに、水酸化鉄を加えると、黒がさらに深みを増す。人毛で作られた漆刷毛(ばけ)で、漆を幾度も塗り重ね、刷毛の跡が残らないよう、均等に仕上げたのが「塗り立て」だ。
さらに蒔絵(まきえ)など、より平滑さを求める際には、器物の表面をアブラギリの木を焼いた炭で研ぐ「蝋色(ろいろ)仕上げ」を行う。最後は、手のひらで微調整しながら漆で凹凸を埋めて磨き上げると、鏡面のように滑らかな漆黒が生まれる。「漆黒には、職人の知恵と技が込められている」と学芸員の水野慶子さん。