志村ふくみ(93)は1997年、「源氏物語」を題材に連作を始める。親交のあった陶芸家・富本憲吉の助言で文学を学び、源氏物語の美意識に刺激を受けたのがきっかけだった。制作中、京都・嵯峨野の自宅近くにある清凉寺に、光源氏のモデルといわれる源融(みなもとのとおる)の墓所を見つけ、縁を感じたという。
「夕顔」(展示は2月14日から)は、もののけに憑(つ)かれて命を落とす薄幸な女性がテーマ。ふくみは、紫根と臭木(くさぎ)で染めた糸で夕顔のはかなさを表現した。
基調となる紫の紫根染めは平安時代から伝わる技法で、染めの難しさから高貴な人のみがまとうことができた。「紫の上や藤壺など、紫は源氏物語を象徴する色。物語と色彩に漂う品格を大切に染められています」と学芸員の鬼頭美奈子さんは話す。