文化人類学者から美術家に転身したスーザン・ヒラー。本作は、世界各地で収集された、23の少数言語の音声で構成された映像作品だ。
すでに消滅したか現在消滅寸前の言語の話者が、それぞれ身近な出来事や神話のような物語を語っていく。映像に話者の姿は現れず、まるで歌や詩のように言葉だけが流れる。「舌打ちや鳥のさえずりのように聞こえる会話もあります」と学芸員の能勢陽子さんは話す。
真っ黒な画面には字幕と音声波形だけが映し出される。話者の容貌(ようぼう)から先入観を持つことができない鑑賞者へ、音声波形は、言語を数値化した視覚情報として提示される。「数値や基準では測りきれない、そこからこぼれ落ちる多様性について考えさせられます」