タイ・チェンマイを拠点に、記憶や夢、社会問題をテーマにした作品の制作を続ける映画監督・映像作家のアピチャッポン・ウィーラセタクンは、映像をガラス板に投影させたインスタレーション作品を見せている。
タイ東北部の夜の寺院で断続的に打ち上げられる、花火の映像。閃光(せんこう)に照らされ、動物をかたどった奇妙な彫刻や、庭園を歩く恋人の姿が闇に浮かんでは消える。明滅する光が夢と現実、生と死を行き来する幻想性を示す一方で、鳴り響く破裂音は銃声を連想させもする。
同地は1960~80年代に、共産主義者が迫害された歴史を持ち、彫刻群と恋人は、抑圧への抵抗や生のシンボルとして表れる。「死者の鎮魂と、生の『ロマン』が共存する作品」と学芸員の能勢陽子さんは話す。