中世日本の武士や、近世の西欧貴族が愛した茶文化は、庶民に普及し、くつろぎの時間として定着した。茶の道具は、住環境の変化に合わせてデザインされ、機能と見た目の美しさを兼ね備えていく。陶磁器デザイナーの故森正洋が手がけた「M型シリーズ」もその一つだ。
団地が多く立ち並んだ1970年代に、手狭なキッチンの限られた収納スペースに入るよう配慮された。使い終わった後、食器棚にしまっても美しさを損なわないよう、砂糖とミルクの容器をポットの上に重ねて置けるデザインとなった。
森は多様な生活に合わせ「見て美しく持って感じのよい物」を量産し、多くの人々と共有することを追究した。学芸員の林いづみさんは「デザインは、生活に灯をともします」と話す。