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「シダ」

ルネ・ラリックの香水瓶(豊橋市美術博物館)

「シダ」
1912年 北澤美術館蔵

 仏のガラス工芸家、ルネ・ラリック(1860~1945)が、香水瓶を手がけるようになった初期の代表作が12年の「シダ」。瓶本体は、鋳型にガラスを吹き込んで成型し、表面には、「パチネ」と呼ばれる着色が施されている。また、緑のガラスを用いたふたと肖像は、プレス機で形作られている。

 肖像に描かれているのは、妻のアリス。09年に亡くなった妻をしのんだのだろう。周りを囲む植物シダは、仏でガラスの材料に使われていたといわれ、ガラスの象徴ともいえる。そのシダが、今にもアリスを覆い隠そうとしている。

 ラリックは、本作の制作を境にジュエリーからガラス工芸に専念する。「移行期のシンボル的な作品ですね」と学芸員の田中竜也さん。

(2018年10月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)