現存する「源氏物語絵巻」19場面中、和歌のやり取りを描くのは10場面。特に本作(12月2日まで展示)は、和歌で登場人物の心情を表現した、優れた歌絵だ。
秋の夕暮れ、匂宮(におうのみや)が久しぶりに妻の中君(なかのきみ)を訪ねると、薫中将の香りがする。匂宮は縁先に出て琵琶を弾きながら、薫との仲を邪推して和歌を詠むと、中君も他に妻のいる匂宮への寂しい気持ちを和歌に託す。「秋はつる野辺の気色もしのすすき ほのめく風につけてこそみれ」
庭のススキやハギなどを揺らす秋風は、2人の間に吹く「飽きる風」にも通じているようだ。「深読みすれば、建物を染める残照は『秋の日は釣瓶(つるべ)落とし』といわれる、すぐ先の夕闇を暗示しているのかも」と学芸部長の四辻(よつつじ)秀紀さん。