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国宝「源氏物語絵巻 宿木(三)」

源氏物語の世界 王朝の恋物語(徳川美術館)

国宝「源氏物語絵巻 宿木(三)」
平安時代(12世紀)、同館蔵

 現存する「源氏物語絵巻」19場面中、和歌のやり取りを描くのは10場面。特に本作(12月2日まで展示)は、和歌で登場人物の心情を表現した、優れた歌絵だ。

 秋の夕暮れ、匂宮(におうのみや)が久しぶりに妻の中君(なかのきみ)を訪ねると、薫中将の香りがする。匂宮は縁先に出て琵琶を弾きながら、薫との仲を邪推して和歌を詠むと、中君も他に妻のいる匂宮への寂しい気持ちを和歌に託す。「秋はつる野辺の気色もしのすすき ほのめく風につけてこそみれ」

 庭のススキやハギなどを揺らす秋風は、2人の間に吹く「飽きる風」にも通じているようだ。「深読みすれば、建物を染める残照は『秋の日は釣瓶(つるべ)落とし』といわれる、すぐ先の夕闇を暗示しているのかも」と学芸部長の四辻(よつつじ)秀紀さん。

(2018年11月27日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)